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  「昔にもなほたちこゆるみつぎ物」。

具顯の中將、

  「くもらぬかげもかみのまにまに」。

春宮、

  「九十になほもかさぬる老のなみ」。

本院、

  「たちゐくるしき世のならひかな」。

暮れはつるほどに釣殿へ御船寄せておりさせ給ひぬ。春宮こよひ歸らせ給へば御贈物に和琴一つ奉らせ給ふ。まことや准后にもけいくわ和尙の三衣、紺地の錦につゝみてしろがねの箱に入れてまゐる。いづれも大宮院の御沙汰なり。掃部寮火しげうともしてうち群れつゝ居たるさまもなまめかしうみやびかなり。こゝかしこにもこの御賀のことども書きつけしるす人のみぞ多かめれば片はしだにいとかたくならむとあさまし。何となく過ぎ行くほどに弘安も十年になりぬ。この御門位に即かせ給ひて十三年ばかりになりぬらむ。本院待遠におぼさるらむといとほしく推し量り奉るにや、例の東より奏する事あるべし。新院の御方ざまには心ぼそうきこしめしなやむべし。去年の春御乳母の按摩の二位殿うせにしかば、一めぐりの佛事に龜山殿へおはしましていかめしう八講行はせたまふ日、雪いたう降りければ、九條三位隆博檜扇のつまを折りて、