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はしけり。またも御子はおはすとぞ。伊實中納言と申しゝは、顯隆の中納言のむすめの腹にて、むかひばらとて、むねとし給ひしかば、兄の宰相よりも、ときめき給ひき。あにおとゝ皆笛をぞ吹き給ひし。ふたりながらおほい殿よりさきに、かくれ給ひにき。伊實の中納言の子に、少將侍從など申しておはすなり。宗通の大納言の三郞にて、季通前の備後守とておはしき。文のかたもしり給ひき。箏のこと琵琶など、ならびなくすぐれておはしけるを、兵衞の佐より四位し給ひて、この御中に上達部にもなり給はざりしぞくちをしき。さやうの道のすぐれ給へるにつけても、色めきすぐし給へりけるにや。

     かりがね

かの九條の民部卿の四郞にやおはしけむ。侍從大納言成通と申すこそ、よろづの事、能多く聞えしか。笛歌詩など、其のきこえおはして、今樣うたひ給ふ事、類ひなき人におはしき。又鞠あしにおはすることも、昔もありがたきことになむ侍りける。大方ことに力いれ給へるさま、ゆゝしくおはしけり。鞠も千日かゝずならし給ひけり。今樣も、碁盤に碁石を百かぞへおきて、うるはしく裝束し給ひて、帶などもとかで、「釋迦のみのりはしなじなに」といふ同じ歌を、一夜にもゝかへり數へて、百夜謠ひ給ひなどしけり。馬に乘り給ふ事も、すぐれておはしけり。白河の御幸に、馬の川に伏したりけるに、鞍の上にすぐにたち給ひて、つゆぬれ給ふ所おはせざりけるも、こと人ならば水にこそうち入れられましか。大かた早業をさへ並びなくし給ひければ、そりかへりたる沓はきて、勾欄のほこぎの上あゆみ給ひ、車のまへうしろ、