Page:Kokubun taikan 07.pdf/130

提供:Wikisource
このページは校正済みです

せ給ふほど、さかづきあまた度になりて、人々みだれ給ひて紐おしやりてさぶらはるゝに、この中納言參り給へれば、うるはしくなりてゐなほりなどせられければ、殿「とかく御紐解かせたまへ。ことやぶれはべりぬべし」とおほせられければ、かしこまりて逗留し給ふを、公信卿うしろより解き奉らむとて寄り給ふに、中納言殿御氣色あしくなりて、「隆家は不運なる事こそあれ、そこだちにかやうにせらるべき身にもあらず」と荒らかにのたまふに、人々御氣色變り給へるなかにも、今の民部卿殿はうはぐみて人々の御顏をとかく見給ひつゝ、こといできなむず、いみじきわざかなとおぼしたり。入道殿うちわらはせ給ひて、「今日はかやうのたはぶれ事侍らでありなむ。道長とき奉らむ」とて、よらせ給ひて、はらはらと解き奉らせ給ふに、これらこそあるべきことよとて御氣色なほりて、さしおかれつる盃とり給ひてあまたゝびめし、常よりもみだれ遊ばせ給ひけるさまなど、あらまほしくおはしましけり。殿もいみじうもてはやし聞えさせ給ひけり。さて式部卿宮の御事をのみさりともさりともと待ち給ふに、一條院御惱み重らせ給ふきはに御前に參りたまひて御氣色たまはり給ひければ、「案の御事こそつひにえせずなりぬれ」と仰せられけるに、「あはれの人非人やと申さまほしくこそありしか」とのたまひけれ。さてまかで給ひて、我が御家のひがくしのまに尻うちかけて、手をはたはたとうち居給へりける。世の人は宮の御事ありて、この殿御後見もし給はゞ天下の政はしたゝまりなむとぞ思ひ申したりしかども、この入道殿の御さかえのわけらるまじかりけるにこそは。三條院の大甞會の御禊にきらめかせ給へりしさまなどぞ常