うに飛上りながら叫んだ。「ああ思い出しました。思い出しました。この穴に這入つていたものを」
「え、え、それはどこにありますか。そして何です。それは」
繁太郎は彼女の傍に
七
「それは鉄の塊です。私が大切に
彼女が息を弾ませながら語る所によると、彼女の父というのは一種の発明狂で、それに大の帝国主義者だったので、その当時では未だ珍ら〔ママ〕しかった飛行機の研究をしたり、
「母も、ことによったらお父さんが戦争の時を考えて、
「鍵はありませんでしたか、鍵は」一伍一什を聞いて、繁太郎は興奮しながら叫んだ。
「え、どうしてそれを御存じですか、古びた鍵一つ、父の遺して行ったものがあります」
「そうですか。では行きましよう」
「え」あまりだしぬけだったので、直子は耳を疑うように、「どこへ行くのですか」
「あなたの故郷へ、あなたの元の屋敷へ」
「参りますまい」直子は首を振った。「昔の事を思い出すのは厭ですし、それに」彼女は
「いいえそんな事を云ってはいけません。あなたはあなたの家に蔵された宝を探しに行かねばなりません」
「えっ、宝ですって」
「さ〔ママ〕うです」
「どうしてそんな事がお分りになりました?」
「想像です。想像ですけれども
八
翌朝早く、二人の男女が川越行の電車に乗っていた。それは、笠松繁太郎と小山直子だったが、電車に乗った時から彼等の後を怪しい男が二人尾行しているのを、彼等は少しも知らないようだった。二人は宝を掘りに行くという異様な仕事に、すっかり余裕を失っていた。
「これが蔵ですわ。
二人が直子の旧屋敷についた時に、直子は丁字路になった狭い路の角に建っている蔵を
「この角が東南ですか」
「いいえ向うの角になります」
「では断らねば這入れませんね」
「どっちにしたって、断らなければ這入れません。私が断ってきます」
直子は駈け出したが、やがて許しを得て帰って来たので、二人は蔵の中に這入った。
「これが東南の隅ですね。鍵穴があるでしょうから探して下さい」繁太郎はそう云って、用意していた懐中電燈を照らした。
「ああ、ありました」直子は叫んだ。
「では、あなたの持っている鍵で開けて下さい。多分合うでしょう」
「ええ、合います。ですけれども、私何だか恐ろしいような気がして」
「馬鹿な事を云っちゃいけません。早く開けて御覧なさい」
床の隅にあった鍵穴に鍵を入れて、カチリと
繁太郎は暫く腕を組んで考えていたが、やがて直子の方を向いて、
「直子さん、この穴から例の鉄の塊を投げ入れて御覧なさい」