Page:Gunshoruiju17.djvu/252

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れば御心ちあしからむ物ぞとてもてよりたれば。聊なめ給て。すこしかたみとてぬぎ置給ふきぬにつゝまんとすれば。有天人つゝませず。みぞをとり出てきせんとす。そのときにかぐや姬。しばしまてと云。きぬきせつる人は心ことになるなりと云。物一こといひをくべきこと有けといひてふみかく。天人をそしと心もとながり給ふ。かぐや姬。ものしらぬことなの給そとていみじくしづかに。おほやけに御文たてまつり給ふ。あはてぬさま也。かくあまたの人を給てとゞめさせ給へど。ゆるさぬむかひまふで來てとり[ゐてイ]まかりぬれば。くちおしくかなしき事。宮づかへつかふまつらずなりぬるも。かくわづらはしきみにて侍れば。心えずおぼしめされつらめども心づよく承はらずなりにしこと。なめげなるものにおぼしめし留られぬるなむ。心にとまり侍りぬとて。

 今はとて天の羽衣きるおりそ君をあはれとおもひいてける

とてつぼのくすりそへて。とうのちうじやうをよびよせてたてまつらす。中將に天人とりてつたふ。中將とりつれば。ふと天の羽衣打きせ奉りつれば。翁をいとをしかなしとおぼしつることもうせぬ。此きぬきつる人は物おもひなくなりにければ車に乘て。百人ばかり天人ぐしてのぼりぬ。そののち。翁女ちのなみだをながしてまどひけれどかひなし。あの書をきし文をよみてきかせけれど。何せむにか命もおしからむ。たがためにかなに事もようもなしとて藥もくはず。やがておきもあがらずやみふせり。中將人々引ぐして歸まいりて。かぐや姬をえたゝかひとゞめずなりぬることを。こまとそうす。藥のつぼに御ふみそへてまいらす。ひろげて御覽じて。いといたくあはれがらせたまひて。ものもきこしめさず。御