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の國へ行ほどに。ぬす人成ければ。くにのつかさからめければ。女をば草むらの中にをきてにげにけり。みちゆく人。此野はぬす人ありとて。火をつけんとするに。女わびて。

 むさしのはけふはな燒そ若草の妻もこもれり我もこもれり

とよみけるを聞て。この女をばとりて。ともにゆきにけり。

昔。武藏なる男。京なる女のもとに。きこゆればはづ[か脫歟]し。きこ[え脫歟]ねばくるしとかきて。うはがきにむさしあぶみとのみ書て。のちをともせずなりにければ。京より女。

 武藏鐙流石に懸て思ふにはとはぬもつらしとふもうるさし

とあるを見てなん。たへがたきこゝちしけり。

 とへはいふとはねは恨む武藏鐙かゝる折にや人はしぬらん

むかし男。みちのくにに。すゞろにいたりにけり。そこなる女。京の人をば。めづらやかにかおもひけん。せちにおもへるけしきなん見えける。さてかの女。

 中々に戀にしなすはくはこにそなるへかりける玉のを計り

うたさへぞひがめりける。さすがにあはれとやおもひけん。いきてねにけり。夜ふかく出にければ女。

 夜も明はきつにはめなてくたかけのまたきに鳴てせなをやりつる

といひけり。おとこ京へなんまかるとて。

 栗原のあねはの松の人ならは都のつとにいさといはまし

といへりければ。よろこびて思ひけりとぞいひける。

昔。男。みちの國へありきけるに。なでうことなき人のむすめにかよひけるに。あやしくさやうにてあるべき女にはあらず見えければ。

 忍ふ山しのひてかよふ道もかな人の心の奧もみるへく

女かぎりなくめでたしとおもへど。さるさがなきえびす所にては。いかゞはせん。

昔。みちのくににおとこすみけり。みやこへい