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手紙


麓 花冷


1


「では何とかしてみますわ、一寸待ってね」

 そう云って二階へトンと昇って行く千耶子を横目で見送り乍ら柚崎は洋酒のグラスを取り上げて、やけに口の中へそそぎ込んだ。

 朗かな作り声と、低いバスとが無茶苦茶に交錯する中にレコードのオリエンタルダンスが正しいテンポで廻っていた。柚崎は、そのリズムに合して無意識に靴先でコツとタタキを打っていた。そして十五分も経った頃階段をトンと降りて来る足音を聞きつけて和やかな表情をキッと険しくして、空っぽになったグラスへ眼を落していた。

「お待ちどうさまッ」

 職業に馴らされた作り声がこんな時にも千耶子は大声で口に出るのだった。その声を聞いても柚崎はやっぱりグラスから眼を上げなかった。