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貴賤えらばず召しいだし、其身は高座に上り、いかに人々聞給へ、われ此とし月此ところに有て、面々の御あはれみをかうむること限なし、しかのみならず、人のふだいたりし者を、こひゆるされける事、御恩にあらずと云事なし、然を不りよの幸によつて、りいひやの國王より、御調物をゆるされ給ふ事、これ我才智のなす所也、これにあらずんば、いかで御おんを報ずべけんや、これもひとへに天道の御惠にてこそ候へと語ければ、其守護人をはじめとして、さんのことは申に及はず、あたりちかき國王までも、いよいそほをたつとみあへりけり、

第十三 商人かねをおとす公事の事

あるあき人さんにおゐて、三貫目の銀子をおとすによつて、札を立てゝこれをもとむ、其札に云、此かねをひろいけるものゝ有におゐては、われに得させよ、其のほうびとして三分の一をあたへんと也、然る處に、あるもの之をひろふ、我家に歸り妻子に語て云、我貧窮にして、汝等を養ふべきたからなし、天道これをせうらん有て給へるやと、喜ぶことかぎりなし、然といへとも、此札の面を聞て云やう、其ぬしすでに分明也、道理をまげん事さすがなれば、此かねをぬしへかへし、三分の一を得てましといひ、彼主がもとへ行て、其有樣を語處に、主俄に慾念おこりて、ほうびのかねを難澁せしめんがため、我かねすでに四貫目也、持來れる處は三貫目也、其まゝ置、汝は罷歸れと云、かのものうれへて云、我正直をあらはすといへども、御邊は無理をのたまふ也、詮ずる處、守護に出て理非を決だんせんと云、去に依て二人ながらきうめいの庭に罷出る、彼者は三貫目有と云、奉行も理非を決しかねけるを、いそほ聞て云、本主の云所明白也、しかのみならずせいだん有、眞實これにすぐべからず、然らば此金は、彼ぬしのにてはあるべからず、其故は、落す所の銀は四貫目なり、拾ひたる所は三貫目なり、拾ひたる者にこれを給はつて、歸へれとのたまへば、其時本主おどろき、今は何をかつゝみ申べき、此かねすでに我かね也、ほうびのところを難澁せしめんがために、私曲を構へ申也、あはれ三分一を彼にあたへ、殘りをわれにたべかしと云、其時いそほ笑て云、汝が慾念みだりがわし、今より以後は停止ちやうじせしめよとて、さらば汝につかはすとて、三分二をば主しに返