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 春の三角標


日もすがら沫を飛ばす風のなか我はうろこの深きを剝ぎぬ


とある夜のうすき眼の色幾世経てまのあたりなる花をたばか


称名は月のよごれにかへりゆきある世の夢を身ごもりに死ぬ


命がけのたはむれごとも世の涯の空を翔つてもてはやされよ


星の座をかなたこなたに置きならベこの夜のはての夢おしはかる


この夕べつかさはまちに斬られたり蠑螺の腹の赤きたはむれ


円かなる瞳の奥に今の世の人身御供といふがひそめり


眼じろげば一つのこれるたんぼママぽの胚子とび去りながき日暮れぬ


この夜の壁も灯しも風の音もただしらじらと我をあざむく (子の訃に)