領事関係に関する日本国と中華人民共和国との間の協定

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 領事関係に関する日本国と中華人民共和国との間の協定をここに公布する。

御名御璽

平成二十二年一月十八日
内閣総理大臣   鳩山由紀夫

条約第一号

領事関係に関する日本国と中華人民共和国との間の協定

  日本国及び中華人民共和国は、  

  両国及び両国の国民の権利及び利益の保護を容易にするために両国間の領事関係を発展させ、また、両国間の友好関係及び協力を促進することを希望して、  

  次のとおり協定した。  

  第一条  [編集]

  この協定の適用上、  

  (a)「領事機関」とは、総領事館、領事館、副領事館又は代理領事事務所をいう。  

  (b)「領事管轄区域」とは、領事機関について領事任務の遂行のために定められた地域をいう。  

  (c)「領事機関の長」とは、その資格において行動する責務を有する者をいう。  

  (d)「領事官」とは、その資格において領事任務を遂行する者(領事機関の長を含む。)をいう。  

  (e)「領事機関の公館」とは、建物又はその一部及びこれに附属する土地であって、専ら領事機関のために使用されているもの(所有者のいかんを問わない。)をいう。  

  (f)「領事機関の公文書」には、領事機関に属するすべての書類、文書、通信文、書籍、フィルム、テープ及び登録簿並びに符号及び暗号、索引カード、記憶媒体に蔵置された情報並びにこれらを保護し又は保管するための家具を含む。  

  第二条  [編集]

  領事任務は、領事機関によって遂行される。領事任務は、また、この協定の定めるところにより、外交使節団によっても遂行される。  

  第三条  [編集]

  領事任務は、次のことから成る。  

  (a)接受国において、国際法の認める範囲内で派遣国及びその国民(自然人であるか法人であるかを問わない。)の利益を保護すること。  

  (b)両締約国の間の経済上、通商上、文化上、科学上及び技術上の関係の発展を助長することその他両国間の友好関係を促進すること。  

  (c)接受国の経済上、通商上、文化上、科学上及び技術上の活動の状況及び進展を適法なすべての手段によって把握し、当該状況及び進展について派遣国の政府に報告し、並びに関心を有する者に情報を提供すること。  

  (d)派遣国の国民の旅券その他の渡航文書の申請を受理し、又は派遣国の国民に対してこれらを発給し、派遣国へ渡航し若しくは派遣国を通過することを希望する者の査証及び適当な文書の申請を受理し、又はこのような者に対してこれらを発給し、並びに前記の旅券、査証及び文書に修正若しくは追記を加え、又はこれらを無効にすること。  

  (e)派遣国の国民(自然人であるか法人であるかを問わない。)を援助すること。  

  (f)接受国の法令に反対の規定がないことを条件として、公証人若しくは身分事項登録官としての資格又はこれに類する資格において行動し、及び行政的性質を有する一定の任務を遂行すること。  

  (g)死亡を原因とする相続が接受国の領域内で行われる場合に、派遣国の国民(自然人であるか法人であるかを問わない。)の利益を接受国の法令の定めるところにより保護すること。  

  (h)派遣国の国民である未成年者その他の無能力者の利益を、特にこれらの者について後見又は財産管理が必要な場合に、接受国の法令の定める範囲内で保護すること。  

  (i)派遣国の国民が不在その他の理由で適切な時期に自己の権利及び利益を守ることができない場合に、当該権利及び利益を保全するために接受国の法令の定めるところにより暫定的措置がとられるようにするため、接受国の裁判所その他の当局において当該国民を代理し、又は当該国民が適当に代理されるよう取り計らうこと。ただし、接受国の慣行及び手続に従うことを条件とする。  

  (j)両締約国の間で効力を有する国際取極に従い又は、このような国際取極がない場合には、接受国の法令に合致する方法により、裁判上若しくは裁判外の文書を送達し、又は派遣国の裁判所のために証拠調べの嘱託状若しくは委任状を執行すること。  

  (k)派遣国の国籍を有する船舶及び派遣国に登録された航空機並びにこれらの船舶及び航空機の乗組員につき、派遣国の法令の定める監督及び検査の権利を行使すること。  

  (l)(k)に規定する船舶及び航空機並びにこれらの乗組員に援助を与え、船舶及び航空機の航行に関する報告を受理し、船舶及び航空機の書類を検査し及びこれに押印し、接受国の当局の権限を害することなく、航行中に生じた事故を調査し、並びにこれらの乗組員の間に係る紛争を派遣国の法令により認められる限度において解決すること。  

  (m)派遣国が領事機関に委任した他の任務であって、接受国の法令により禁止されていないもの、接受国が異議を申し立てないもの又は両締約国の間で効力を有する国際取極により定められたものを遂行すること。  

  第四条  [編集]

  接受国は、領事機関の長につき任務の遂行を承認した場合(暫定的に承認した場合を含む。)には、直ちにその旨を領事管轄区域内の権限のある当局に通知する。接受国は、また、領事機関の長がその任務を遂行すること及びこの協定に定める便益を受けることができるようにするため、必要な措置がとられることを確保する。  

  第五条  [編集]

  接受国は、領事機関の任務の遂行のため、十分な便益を与える。  

  第六条  [編集]

  1 領事機関の公館は、不可侵とする。  

  2 接受国の当局は、領事機関の長若しくはその指名した者又は派遣国の外交使節団の長若しくはその指名した者の同意がある場合を除くほか、領事機関の公館に立ち入ってはならない。  

  3 接受国は、2の規定に従うことを条件として、領事機関の公館を侵入又は損壊から保護するため、及び領事機関の安寧の妨害又は領事機関の威厳の侵害を防止するため、すべての適当な措置をとる特別の責務を有する。  

  4 領事機関の公館及びその用具類並びに領事機関の財産及び輸送手段は、国防又は公共事業の目的のためのいかなる形式の徴発からも免除される。この目的のために収用を必要とする場合には、領事任務の遂行の妨げとならないようあらゆる可能な措置がとられるものとし、また、派遣国に対し、迅速、十分かつ有効な補償が行われる。  

  5 領事官の住居は、領事機関の公館と同様の不可侵及び保護を享有する。  

  第七条  [編集]

  領事機関の公文書及び書類は、いずれの時及びいずれの場所においても、不可侵とする。  

  第八条  

  1 派遣国の国民に関する領事任務の遂行を容易にするため、  

  (a)領事官は、派遣国の国民と自由に通信し及び面接することができる。派遣国の国民も、同様に、派遣国の領事官と通信し及び面接することができる。接受国は、派遣国の国民が領事官と接触すること及び領事機関の公館に入ることを妨げてはならない。  

  (b)接受国の権限のある当局は、領事機関の領事管轄区域内で、派遣国の国民(別段の証明がなされる場合を除くほか、自らが派遣国の国民であると主張する者を含む。)が逮捕された場合、留置された場合、裁判に付されるため勾留された場合又は他の事由により拘禁された場合には、当該国民の要請があるか否かにかかわらず、そのような事実及びその理由を、遅滞なく、遅くともこれらの逮捕、留置、勾留又は拘禁の日から四日以内に、当該領事機関に通報する。ただし、通信上の障害のために当該領事機関に通報することができない場合には、接受国の権限のある当局は、派遣国の外交使節団に通報する。  

  (c)領事官は、その領事管轄区域内で逮捕され、留置され、裁判に付されるため勾留され、又は他の事由により拘禁されている派遣国の国民を訪問し、自己の選択する言語で当該国民と面談し及び文通し、並びに当該国民のために弁護人をあっせんする権利を有する。接受国の言語以外の言語で面談する場合においては、領事官は、接受国の権限のある当局の要請があるときは、面談の内容を接受国の言語に翻訳して当該当局に口頭で告げる。接受国の権限のある当局は、領事官の要請があるときは、遅滞なく、領事官が派遣国の国民を訪問するための措置をとる。領事官は、また、その領事管轄区域内で判決に従い留置され、拘留され又は拘禁されている派遣国の国民を訪問し、並びに当該国民と面談し及び文通する権利を有する。ただし、領事官が当該国民のために行動することに対し、当該国民が反対する意思を書面により表明し、かつ、接受国の権限のある当局がその書面を領事官に提示する場合には、領事官は、そのような行動を差し控える。  

  (d)逮捕され、留置され、裁判に付されるため勾留され、判決に従い拘留され、又は他の事由により拘禁されている派遣国の国民と領事機関との間のいかなる通信も、接受国の権限のある当局により、遅滞なく送付される。  

  (e)接受国の権限のある当局は、逮捕され、留置され、裁判に付されるため勾留され、判決に従い拘留され、又は他の事由により拘禁されている派遣国の国民に対し、当該国民が(b)から(d)までの規定に基づいて有する権利について遅滞なく告げる。  

  2 1に定める権利は、接受国の法令に反しないように行使する。もっとも、当該法令は、この条に定める権利の目的とするところを十分に達成するようなものでなければならない。  

  第九条  [編集]

  接受国の権限のある当局は、関係のある情報を入手した場合には、次の責務を有する。  

  (a)派遣国の国民が領事機関の領事管轄区域内で死亡した場合には、その旨を遅滞なく当該領事機関に通報すること。  

  (b)後見人又は財産管理人を任命することが、派遣国の国民である未成年者その他の無能力者の利益に合致すると認められる場合には、その旨を遅滞なく権限のある領事機関に通報すること。もっとも、その通報は、後見人又は財産管理人の任命に関する接受国の法令の実施を妨げるものではない。  

  (c)派遣国の国籍を有する船舶が接受国の領海若しくは内水において難破し若しくは座礁した場合又は派遣国に登録された航空機が接受国の領域内で事故を起こした場合には、その旨を遅滞なく事故発生地の最寄りの地にある領事機関に通報すること。  

  第十条  [編集]

  1 領事官は、任務の遂行に当たり、次の当局にあてて通信することができる。  

  (a)領事管轄区域内の権限のある地方当局  

  (b)接受国の権限のある中央当局。ただし、中央当局にあてた通信は、接受国の法令及び慣行によって許容される範囲内のものとする。  

  2 領事機関の要請があるときは、その領事管轄区域内の権限のある地方当局は、自国の法令の定める範囲内で、当該地方当局が管轄する地域における公共の安全(派遣国の国民の安全を含む。)についての状況に関する情報であって適当と認めるものを当該領事機関に提供することを決定する。  

  3 領事機関及びその領事管轄区域内の権限のある地方当局は、緊急事態に係る準備のため、相互間の連絡の経路を維持する。  

  第十一条  [編集]

  1 この協定は、文脈上許容される範囲内で、外交使節団による領事任務の遂行についても、適用する。  

  2 外交使節団の構成員であって、外交使節団の領事部に配属されたもの又は他の方法により領事任務の遂行を命ぜられたものの氏名は、接受国の外務省又はその指定する当局に通告する。  

  3 外交使節団は、領事任務の遂行に当たり、次の当局にあてて通信することができる。  

  (a)領事管轄区域内の地方当局  

  (b)接受国の法令及び慣行によって許容される場合には、接受国の中央当局  

  4 2に規定する外交使節団の構成員の特権及び免除は、外交関係に関する国際法の規則により引き続き規律される。  

  第十二条  [編集]

  1 この協定は、千九百六十三年四月二十四日にウィーンで作成された領事関係に関するウィーン条約(以下「ウィーン条約」という。)第七十三条2の規定に基づき、ウィーン条約の規定を確認し、補足し、拡大し、及び拡充する。  

  2 この協定により明示的に規律されない事項については、ウィーン条約により引き続き規律される。  

  3 この協定のいかなる規定も、締約国のこの協定及びウィーン条約以外の国際取極に基づく権利及び義務に影響を及ぼすものではない。  

  4 この協定のいかなる規定も、いずれかの締約国と第三国との間のウィーン条約に基づく権利及び義務に影響を及ぼすものではない。  

  第十三条  [編集]

  この協定は、同時に、中華人民共和国香港特別行政区及び中華人民共和国マカオ特別行政区に適用する。  

  第十四条  [編集]

  両締約国の代表者は、共通の関心事である領事に関する事項(この協定の解釈又は実施に係る事項を含む。)について相互に協議するために随時会合する。  

  第十五条  [編集]

  1 この協定は、批准されなければならない。批准書の交換は、東京で行われるものとする。この協定は、批准書の交換の日の後三十日目の日に効力を生ずる。  

  2 いずれの締約国も、外交上の経路を通じた書面による通告により、この協定を終了させることができる。終了は、当該通告を受領した日の後六箇月を経過した時に効力を生ずる。  

  

  以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。  

  

  二千八年十月二十四日に北京で、ひとしく正文である日本語、中国語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。  

  

  

  日本国のために  

  宮本雄二  

  

  中華人民共和国のために  

  胡正躍


外務大臣    岡田 克也
内閣総理大臣  鳩山由紀夫

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