聖詠講話中編/第百二十五聖詠講話

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第百二十五聖詠講話[編集]

しゅがシオンのとりこかへしゝときわれゆめみるがごとくなりき』訳者やくしゃは『われゆめみるがごとくなりき』われなぐさめめられたり』となす。


。 とりこてふことばは、その名称めいしょう単純たんじゅんなれどもおほくの意味いみゆうす。とりことりこありパウェルこれきて『およそ意思おもひとりこにしてハリストスしたがはしめたり』〔コリンフ後書十の五〕といへり。しきとりこあり、パウェルこれきて『かれつみおぼるゝじんとりこにす』〔テモフェイ後書三の六〕といへり、霊的れいてきとりこあり、イサイヤこれきて『俘囚とらはれびと解放ときはなちをつげ』〔イサイヤ書六十一の一〕といへり、感情的かんじょうてきとりこあり、てきよりす。れどだい一のものは、のよりつらし。何人なんびとをかとりこにせしもの戦法せんぽうによりて屡々しばしばこれ優待ゆうたいすることあり、たとかれをしてみづみ、まきり、うまはしむるとはいへども、ごうかれたましひがいせず、れどつみとりことなりしものかれもっとづべきこうゆるところ残忍ざんにんにして酷薄こくはくなる命令者めいれいしゃおのれたるなり。この暴君ぼうくん容赦ようしゃすることなく憐憫あはれむことをもせざるなり。例令たとへかれあはれむべきこうなるイウダとりこにしてこれ容赦ようしゃせず、すなは盗聖者とうせいしゃおよ買主者ばいしゅしゃとなせるも、つみ決行けっこうされしのちにはかれイウデヤじんまへ引出ひきいだしてみものとし、かれ犯罪はんざいばくし、これ悔改かいかいようするをゆるさず、ただ悔心かいしんおこさしめたるのみにて係蹄わなみちびけり。つみこうなる命令めいれいあたへ、つみ服従ふくじゅうするものけんふくせしむる残酷ざんこくなる命令者めいれいしゃなり。しかれば吾人われらなんぢ訓戒くんかいす、吾人われらおほいなる熱心ねつしんもつつみけんけ、これたたかひ、何時いつこれせざらん、またつみよりゆうにせられてこのゆううちらん。イウデヤじん種族しゅぞくより解放かいほうせられてあんたらんには、まし吾人われらつみよりゆうにせられたるものかん大悦たいえつし、永久えいきゅうこのえつぞんせざるべからず、いなふたた同一どういつなる悪癖あくへきおちいりてこのえつやぶらずこれけがさゞるようせざるべからず。なぐさめられたり』とは吾人われら平安へいあんえつ快楽かいらくたされしをふなり。


其時そのときわれくちたのしみにてち、われしたよろこびにて〈一本には「歌にて」とあり〉ちたり、其時そのとき諸民しょみんうちへるありき、しゅかれおほいなることおこなへりと』〔二節三節〕。俘擄とりこよりゆうにされしのち喜悦よろこびすくなからずぜん変改かいへんするにたすく。しかれどなんぢはん、何人なんびとこれによりてよろこばざるかと。かれれつエギペトよりゆうにせられ、彼処かしこけるれい境遇きょうぐうだつしてゆうにされしとき其幸福そのこうふくうちにありておんわすれていた怨言えんげんし、いきどほり、まんいだきてつねけり。れどかれいはく、吾人われらしからず、吾人われらよろこたのしめばなりと。かれよろこびゆうをもふていはく、吾人われらよろこぶはただ艱難かんなんよりゆうにされしによりてのみならず、これりて衆人しゅうじんかみ吾人われら照管しょうかんたまふことをみとむるにるなり其時そのとき諸民しょみんうちへるありき、しゅかれおほいなることおこなへり』こここのことば反復はんぷくするはぜんならず、すなはかれゆうしゝおほいなるよろこびしめさんためなり。あることば異邦人いほうじんぞくし、しかうしてあることばかれぞくす。れどよ『かれ吾人われらすくへり』あるいは『吾人われらゆうにせり』とはずしておほいなることおこなへり』へり、すなはこのことばもつ非常ひじょうなること、――せきみたされたることあらはさんとほつしたるなり。屡々しばしばひしごとく、なんぢ此民このたみとりことなり、およそのとりこよりかへりしことが此民このたみもつぜん世界せかいをしへしことなるをるか。そのかへりしことは傳道者でんどうしゃかはり傳道者でんどうしゃかはりにおほくのことをつたふるをふ〉なりき、なんとなればかれきての風評ふうひょうかみ仁愛じんあい衆人しゅうじんあらはしつゝいたところ弘布ひろまり、またかれおこなはれしせきしんおほいにして異常いじょうなりしにる。かれはいせしキール何人なんびとねがはれしにあらず、かみそのたましひやはらげたるによりてかれ解放かいほうせり、しかたんこれ解放かいほうせず、おほくのたまものあたへて解放かいほうせり。われよろこべり。しゅよ、われとりこ南方なんぱうながれごとくにかへたまへ』〔四節〕。何故なにゆえ預言者よげんしゃ聖詠せいえいはじめしゅシオンとりこかへしゝときといひしかしてここにはかへたまへ』といひしや。かれ将来しょうらいきてふなり。此事このこときてはかへしゝときはずかへさんときといひしによりてもらるゝなり。しか此事このこと其時そのときはじまりてすべてはにはかにおこなはれしにあらず、すなはイウデヤじんてんは一ならず三かいありしなり。


。 しかれば預言者よげんしゃあるいこれひ、あるいまつた救贖きゅうしょくのあらんことをいのるなり。おほくのイウデヤじん種族しゅぞくくにとどまらんことをほつしたり、これりてかれ熱心ねつしんかれすくはれんことをのぞみつゝわれとりこ南方なんぱうながれごとくにかへたまへ』といへり、すなはおほいなるしんもつて、おほいなるちからもつ興奮こうふん奨励しょうれいしてかへたまへとのなり。ある訳者やくしゃ此事このことあらはしつゝかはごとく』〔アキラ〕といひ、或訳者あるやくしゃりゅうごとく』〔シムマフ〕といひ、或訳者あるやくしゃみづひくきにくだるがごとく』〔訳者不明〕といへり。


なみだもつものは、よろこびもつらん』〔五節〕。これイウデヤじんきてべられしことなれども、数々しばしばおほくのあいにも応用おうようすることを善行ぜんこうくのごときものなり、すなは善行ぜんこう労働ろうどうかはりにしょうくるなり。これりて吾人われら前以まへもつ労働ろうどうろうし、しかのち安息あんそくもとめんことをようす。これのことは数々しばしばぞくことおいてもることをれば預言者よげんしゃそのせつうちくこととることゝをしめせり。もの労働はたらきてあせながかん忍耐にんたいせざるべからざるがごとく、善行ぜんこう修養しゅうようするものまたしかりとす。安息あんそくひとためもつと必要ひつようなり。ゆえかみ安息あんそくみちほそせまきものとなし、あまつさただ善行ぜんこうのみならず、ぞくことをも困難こんなんともなはせたり、しか後者こうしゃ一層いつそうしかりとす。播種者たねまき建築者けんちくしゃ旅行者りょこうしゃ薪割人まきわりにん職行しょくこうその何人なんびとにまれえきあることをんとほつせば労働ろうどうしんせざるべからず、しかうしてしゅあめようするがごとく、吾人われらにはなみだようす。をばたがやし、およ発掘はつくつするのようあるがごとく、たましひためにも誘惑ゆうわく憂愁ゆうしゅうとはすきかはりに必要ひつようなり、たましひ雑草ざつそうしょうぜざらんため――たましひ残忍ざんにんやはらげんがためたましひ傲慢ごうまんせざらんためなり。注意ちゅういしてたがやさずんばきものをさんせざるなり。しかれば預言者よげんしゃことば意味いみごとし、ただかへりしことのみならず俘擄とりことなりしことをもよろこび、これのことのためかみ感謝かんしゃせざるべからず。これ播種たねまきにしてそれ収穫かりいれなり。たねもの労働ろうどうのちじつようするがごとく、なんぢ俘擄とりことなりしとき播種者たねまきごと憂愁ゆうしゅう労働ろうどうろう艱難かんなんけ、じゅんてん戦争せんそう雨露うろかん忍耐にんたいしてなみだながせり。あめしゅのためにそんするがごとく、なみだろうするものためそんす。れどよ、預言者よげんしゃへり、かれこれ労働ろうどうのために報賞むくいけたりと。くのごと預言者よげんしゃきてたねたづさふるものよろこびてその禾束たばたづさへてかへらん』〔六節〕とひしは穀物こくもつのことにあらず、聴者ちょうしゃをしてなんうち憂悶ゆうもんせざるべきをすすめつゝ煩悶はんもんせざるごとく、艱難かんなんものたとおほくのかなしむべきことにふとも収穫しゅうかくなんよりしょうずる結果けっか想像そうぞうしつゝ煩悶はんもんすべからず。吾人われらこれりつゝなんためにも安息あんそくためにもしゅ感謝かんしゃせん。たと事情じじょうことなるともすべては同一どういつにするも個々ここ別々べつべつにするも播種たねまき収穫かりいれとのごとく一の終結しゅうけつけらるゝなり、吾人われらまたいさましく感謝かんしゃして艱難かんなん忍耐にんたいし、さんして安息あんそくけざるべからず、吾人われら光栄こうえい権柄けんぺい世々よよする吾人われらしゅイイスス ハリストス恩寵おんちょうじんとをもつ来世らいせい福楽ふくらくをもくるにへんためなり。アミン。

参考[編集]

第百二十五聖詠せいえい

登上とうじやううた
1 しゅシオンとりこかへししときわれゆめるがごとくなりき、
2 其時そのときわれくちたのしみにてち、われしたうたちたり、其時そのとき諸民しょみんうちへるありき、しゅかれおほいなることおこなへりと。
3 しゅわれおほいなることおこなへり、われよろこべり。
4 しゅよ、われとりこ南方なんぱうながれごとくにかへたまへ。
5 なみだもつものは、よろこびもつらん。
6 きてたねたづさふるものよろこびてその禾束たばたづさへてかへらん。


へん第126篇(文語訳旧約聖書)

みやこまうでのうた
1 ヱホバ、シオンの俘囚とらはれびとをかへしたまひしとき われらはゆめみるもののごとくなりき
2 そのときわらひはわれらのくちにみちうたはわれらのしたにみてり ヱホバかれらのためにおほいなることをなしたまへりといへるものもろもろのくにのなかにありき
3 ヱホバわれらのためにおほいなることをなしたまひたればわれはたのしめり
4 ヱホバよねがはくはわれらの俘囚とらはれびとをみなみのかはのごとくにかへしたまへ
5 なみだとともにくものは歡喜よろこびとともにかりとらん
6 そのひとたねをたづさへなみだをながしていでゆけど禾束たばをたづさへよろこびてかへりきたらん