笑顔のサービス

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『笑顔のサービス』("Service with a Smile")
作者:C・L・フォントネイ

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画・Paul Orban

ヘルベルトは控えめにカチャカチャと音を立ててお辞儀して――多分どこかに油をさす必要があるのだろう――銀のトレイの上の完璧なマティーニを差し出した。アリスがマティーニをすする間も、彼は真っ白で変わることの無い磁気製の笑顔を鋼鉄の顔に浮かべつつ、トレイを持って立っていた。アリスは顔をしかめた。

「素晴らしいマティーニね、ヘルベルト」とアリスは言った。「ありがとう。でもね、ああもう! いつまでもそんな笑顔を見せないでよ!」

「申し訳ありません、アリス様。しかし、私は自分を改造することができないのです」ヘルベルトは丁寧だが虚ろな声で答えた。

彼は隅に退き、トレイを持ったまま、変わらぬ表情で立ち続ける。そのトレイはヘルベルトが銀鉱脈を見つけて作ったものだった。カクテルグラスはヘルベルトが砂を見つけて作ったものだった。ヘルベルトが神のみぞ知る化学物質を空気や地面から取り出し、ジンやベルモットの味のするものを作りだし、さらにその飲み物を冷やすための氷を凍らせたのだ。

「時々、」物憂げにテーラが言う。「ヘルベルトと一緒に屋敷に住むより、本物の男と一緒に泥で作った小屋で暮らした方が良いんじゃないかと思うわ」

四人の女性は広い邸宅の快適なリビングでダラダラとしていて、そのぜいたくさは彼女が遠くはなれた地球について知っていたどんなものにも劣らぬほどであった。じゅうたんは厚く、家具には物がたっぷり詰め込まれ、壁にかかった絵画は芸術的で見る者の心にうったえ、棚には本や音楽のテープがギッシリ並んでいた。

全てヘルベルトが作ったのだ。ただ、本と音楽のテープだけは、壊れた宇宙船から回収したものだったが。 

「この最上の男無き世界から私たちが出ていくと言うの?」ヘルベルトの作った鏡を見つつ、豊かな黒髪を指で膨らませながらベッツィは尋ねた。

「どうやれば出ていけるのか分かんないわ」金髪のアリスがむっつりと答える。「大気中のトラップが他の船を全部壊しちゃうんだから。私たちのが壊れたようにね。しかも、この磁気層のおかげで無線が外に出ていかないし。残念だけど、私たちは一つのコロニーのようね」

「コロニーは自己存続的なものよ」鋭い顔つきのマーガレットが刺々しく指摘する。「私たちはコロニーじゃないわ。男がいないんだもの」

この四人の女性は宇宙で最も美しいというわけでも、最も若々しいというわけでもなかった。最も美しくて若々しい女性たちは宇宙になど行かない。けれど、彼女たちは十分若くて十分健康だった。でなければ宇宙に行けなかただろう。

一年と半年が過ぎようとしていたーすばらしい小さな黄色い太陽を回るすばらしい小さな惑星に一地球年と半年。ロボットのヘルベルトは従順で万能で、彼女たちに家や食べ物や服、その他彼女たちの望むものならなんでも、地面や大気や水から取り出した原料を使って作り出してくれた。 しかし、この四人の女性をつれて宇宙に旅立った男たちはみんな大破した宇宙船の中で朽ちて横たわっていた。

そして、ヘルベルトは男を作り出すことはできなかった。ヘルベルトは直接的な命令をもらわなくとも動くことができる。そして、彼女達が男を欲しがるのを何度も何度も耳にしたので、一度男を作り出そうとしたこともあった。彼女達はその死体を埋めた――細部まで完璧だったが、ついぞ命を宿して動き出すことはなかったのだ。

「暑いわね」アリスが言う。額を仰ぎながらアリスは言った。「雨がふればいいのに」

ヘルベルトは静かに隅を離れて、ドアから出た。

マーガレットは苦い微笑を浮かべて身振りでヘルベルトを指し示した。

「今晩は雨になるわよ」と彼女は言う。「ヘルベルトがどうやってるのか知らないけど――多分ヨウ化銀か何かを使ってるのね――とにかく雨になるわ。彼にこの家の空調管理をさせた方が簡単なんじゃないこと、アリス?」

「良い考えね」アリスは考え深げに答えた。「早くそうしとけばよかったわ」

他の宇宙船がクラッシュしたとき、ヘルベルトはまだ全然、家の空調管理をやり終えていなかった。彼女たち――四人の女性とヘルベルト――は煙の立ち昇る場所にどっと出て行ったのだ。

それは一人用の小さな偵察艇で、その操縦者はまだ息をしていた。

彼は意識を失っていたが、ちゃんと生きていて、しかも男だった!

彼女たちは彼を何とか家まで慎重に運び、彼をベットに寝かせた。彼女たちはその男のまわりをメンドリのようにうろつき、目を覚まさないかと眺め続けていた。ヘルベルトはと言えば、あちこち歩き回り、必要な薬を作って男に与えていた。

「彼、生きてるわ」テーラは幸せそうに言う。テーラは宇宙看護師だったのだ。「彼は数週間のうちに自分で立って歩けるようになるわ」

「男よ!」ベッツィは畏敬さえこめたような声でささやいた。「私たちの祈りに答えてヘルベルトが彼を連れてきたのかと信じるところだったわ」

「さて、お嬢さんがた」アリスが言う。「一人の男が可能性と一緒に問題を持ち込んできたってことを受け止めなきゃだめよ」

彼女の声には淡々とした厳しさがあり、声の震えをほとんど覆い隠していた。そこには挑戦的な声色がはっきりとあらわれ、それはこれまでこの小さな惑星で耳にしたことがなかったものだった。

「どういうこと?」テーラは尋ねる。

「私には分かったわ」マーガレットは言った。この新しくわき上がった厳しさは彼女の性に合っていた。「彼女が言いたいのは、私たちの誰が彼を取るのかってことよ」

一番若いベッツィははっと息をのみ、彼女の口は驚いたようなOの形になった。テーラは目が覚めたかのようにまばたきした。

「そうよ」アリスが言う。「クジで決める? それとも彼に選ばせる?」

「まだ待てないの?」ベッツィがおずおずと提案する。「彼が良くなるまで待てないかしら?」

ヘルベルトは体温計を持って来て、眠っている男の口に突っ込んだ。彼はベッドの脇に立ち、辛抱強く待った。

「いいえ、できないわ」アリスが言う。「ちゃんと答えを出してみんなが納得できるようにすべきよ。そうすればケンカは起こらないから」

「クジがいいわ」マーガレットが言う。マーガレットの顔は弱々しく、指は痩せこけていた。

一番若いベッツィは口を開けたが、テーラが機を制した。

「私たちは地球に居るんじゃないわ」彼女はその柔らかく甘い声で、きっぱりと言った。「地球の慣習にしたがう必要なんてないし、そうすべきでもないわ。みんな幸せになれる方法が一つあるわ。私たちみんなとその男の人がね」

「つまり...?」マーガレットは冷やかに尋ねた。

「一夫多妻制よ、もちろん。彼は私たちみんなのものになるべきだわ」

ベッツィは身震いしたが、驚いたことに、彼女は頷いたのだ。

「それでいいわ」マーガレットが同意する。「けれど、私たちの誰一人として他の人より好まれることが無いように合意すべきだわ。彼もそのことを最初から理解しておかなくてはならない」

「それは公平ね」アリスが唇をすぼめて言う。「そうね、それが公平だわ。マーガレットに賛成するわ。彼は私たち四人に均等に分配されるべきだわ」

細かなところまで話し合うと、厳しい対立は彼女たちの声色から消え去っていった。四人は昼食の準備をするために病室を離れた。

昼食後、彼女たちは戻ってきた。

ヘルベルトはベッドのそばに立っていた。永久に変わることなき微笑みを鉄の顔に浮かべて。いつものように、ヘルベルトは直接に命令をもらわなくても、彼女たちの望みに応じてくれるのだ。

男は四つに分割されていた。一人につき一つ。それはきわめて巧みな外科仕事であった。

END