深夜の月
提供:Wikisource
« 地歌
深夜の月
作者:広沢某
山の端《は》に、一連《つら》見ゆる初雁《はつかり》の。声も淋しく徒《いたづら》に、仇《あだ》し言葉の人心《ひとごころ》、飽《あ》かぬ別れの悲しさは、夢うつつにも其人《そのひと》の。知らぬ思ひの涙川《なみだがは》、映す姿や鐘の音に、空飛ぶ鳥の影なれや。それならぬ。恋しき人は荒き風、憂き身に通る烈《はげ》しさは、君に恨みは無きものを。小萩《こはぎ》に置ける白露の。くだけて落つる袖袂《そでたもと》。思ふ心の絶《た》え絶《だ》えに、虫の声々冴《さ》え渡る。鳴く音更けゆく秋の夜の月。
- 底本: 今井通郎『生田山田両流 箏唄全解』中、武蔵野書院、1975年。
この作品は1899年3月4日以前に公表されたもので、作者の死亡から100年以上経過しているため全世界でパブリックドメインの状態にあります。