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欧州の自由への脅威に関するハリー・S・トルーマンの特別教書演説

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演説

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上院議長[1]下院議長[2]、議員諸君よ。

私が本日この場にいるのは、欧州の状況の重大な性質について諸君に報告し、諸君の決断を促すためである。

急激な変化が欧州で起こっている。欧州は、我が国の外交政策と国家安全保障に影響を及ぼす地域であるが、欧州諸国に対する脅威が増大している。これら諸国は、市民に自由を与える政府形態の維持に努めている。合衆国は、これら諸国における自由の存続に、深い関心を寄せている。自由と正義に基づく恒久平和を達成し得る条件を維持するためにも、今行動することが何としても必要である。

かかる平和の成就は、この国の大きな目標であり続けた。

史上最大の戦争が終結してから約3年が経過したが、平和と安定が世界に戻ることはなかった。戦争によって生じた諸問題を終戦が自動的に解決してくれる訳ではないということを、我々はよく知っていた。戦後平和の確立は、常に難事業であった。そして、たとえ第二次世界大戦における連合国全てが正当かつ尊厳ある平和を確立したいとの願いによって結束したとしても、かかる平和の達成には依然として多大な困難が存在するのである。

だが、世界がこのような現状にあるのは、主に、大戦後の当然の困難の結果でない。主にある国が公正かつ尊厳ある平和の確立への協力を拒絶したばかりか――あまつさえ――積極的に妨害を図ったという事実によるのである。

議会は、事の顛末を熟知しているはずである。

ご承知の通り、民主主義諸国は交渉と合意を通じて、安定した平和の礎を誠実かつ忍耐強く模索してきた。会議に次ぐ会議が、世界各地で開催されてきた。我々は、公正な平和の確立を可能にする基盤をの上に、戦争から生じる諸問題を解決しようとしてきた。我々が直面してきた障害の数々を、諸君も知っていよう。だが、その実績は世界の民主主義諸国の誠意と品位に対する記念碑として立っている。我々が得た合意は不完全だったとはいえ、正当な平和の基礎を提供できたであろう――もしも維持されていたならば。だが、維持されはしなかった。

これらは、ある国によってどこまでも無視され、妨害されてきたのである。

議会は、国連の発展についても熟知しているはずである。世界の大半の諸国は国連に加盟し、力でなく法に基づく世界秩序を創ろうとした。大半の加盟国は真摯かつ実直に国連を支持し、より強く効果的な組織にしようとしている。

しかしある国は、拒否権の恒常的濫用によって、国連の仕事を絶えず妨害してきた。その国は、2年余りの間に21の行動案を拒否してきた。

だが、それだけではない。終戦以来、ソヴィエト連邦とその手先は、東欧中欧諸国全体の独立と民主的気質を破壊してきた。

それを欧州における残りの自由主義諸国にまで拡大することこそ、冷酷な行動方針にして明確な計画である。そしてこの計画が、今日の欧州に難局をもたらしてきたのである。

チェコスロヴァキア共和国の悲劇的な死は、文明世界全体に衝撃を与えた[3]。現在フィンランドに圧力が掛かっており、スカンディナヴィア半島全体を危険に曝している。ギリシャは反乱軍からの直接的軍事攻撃下にあり、共産主義者の支配する隣国が反乱軍を積極的に支えている。イタリアでは、国家を支配せんとする断固たる攻撃的努力が、少数の共産主義者によって為されている。その手口は様々であるが、パターンは実に明白である。

こうした脅威の増大に直面した欧州の自由主義諸国には、心強い徴候が見られた。これら諸国は、自国経済の安定のため、また各国の自由を共同で防衛するために結束を強めた。

経済分野では、自由な諸制度の維持に欠かせない条件を回復するための、相互自助の動きが進行している。パリでは、西欧経済の回復を担う共同組織を設立すべく、欧州復興計画の参加16ヶ国が再び会議をしている。

合衆国は、戦争の荒廃を修復し、健全な世界経済を回復させんとするこれら諸国の努力を強く支持してきた。昨年12月にこの計画を議会に示した[4]際、私は迅速な行動が必要だと強調した。その日以来欧州で起こった出来事の数々は、この措置を迅速に導入することが喫緊の課題であることを明白に示した。

ソヴィエト連邦とその衛星諸国は、欧州復興計画への協力要請を受けた。彼らは、この誘いを拒絶した。それどころか、計画への激しい敵意を示し、強引に破壊しようとしてきた。

彼らにとってこの計画は、欧州の自由社会を征服する陰謀に対する大きな障害と映った。彼らは、合衆国が欧州を救うことを望んでいない。参加16ヶ国が自助することすらも望んでいないのである。

欧州の経済回復は不可欠だが、経済復興に向けた措置だけでは不充分である。それが成功するためには、内外の攻撃に対する何らかの保護を経済回復に与えねばならないことを、欧州の自由主義諸国は理解している。経済協力への動きの後には、共同自衛への動きが生じた。彼らの自由に対する脅威の増大に直面したためである。

私が諸君に演説している今この瞬間にも、ブリュッセルでは欧州諸国のの5ヶ国[5]が、経済協力と攻撃に対する共同防衛のための50年協定[6]に調印しようとしている。

この行動は大きな重要性を持つ。何故ならこの協定は、より強大な隣国の命令によって強要された訳ではないからである。自国民の意志を代弁する独立政府の自由な選択であり、国連憲章の枠内での行動だったのである。

その重要性は、協定の実際の文言自体を遥かに越えるものである。それは、文明を防衛・維持するための欧州統合に向けた重要な1歩である。この進展は、我々の全面支援に値する。私は確信している。合衆国は適切な手段で、現在必要な支援を自由主義諸国に展開すると。自衛に関する欧州自由主義諸国の決断は必ずや、彼らの自衛を支援するという我が国の決断と整合するはずである。

最近の欧州情勢は、極めて重要な根本問題をこの国民に示している。

私は信じている。合衆国の立場を明確にすべき時が来たのだと。

国連憲章に示された原理と目的は、国際情勢における法の支配の最終確立に対する我々の希望の象徴であり続ける。国連憲章は、この国が奉ずる国際倫理基準の基本表現を成している。だが我々は、ある国の陣営による妨害や、更には抵抗を通じて、この大いなる夢が未だ完全には実現せずにいるという厳しい事実に、目を瞑る訳にはゆかない。

だから我々に必要なのは、国連の仕事を補い、その目的を支えるための追加措置を取ることである。世界史上、迷うより行動する方が遥かに賢明な時代というものがある。行動には、若干の危険が付き物である。だが行動しなければ、危険は遥かに大きくなるのである。

今賢明に行動できれば、我々は強力な軍隊を更に強化でき、国連及び世界の自由主義諸国の自由と正義と平和に貢献できるのである。

従って私は、種々の措置を議会に勧告することこそ己の義務であると考える。思うにその措置とは、欧州の自由民主主義諸国を支援し、我々の国力の基盤を強化する類のものである。

第1に、議会が欧州復興計画に関する立法を速やかに完遂するよう勧告する。同計画は、欧州の自由主義諸国を支援する政策の礎である。同計画の迅速な通過こそ、平和のために今我々にできる、最も効果的な貢献である。

上院が党利党略に縛られることなく取ってきた決定的行動は、民主主義が有効に機能していることの顕著な例である。

今は、時間を大事にせねばならない。下院が迅速な行動を計画しているとの情報が届いたことは心強い。1日たりとも無駄に失われぬよう望んでいる。

第2に、一般軍事訓練法の迅速な制定を勧告する。

欧州の自由主義諸国が力を回復するまでは、そして共産主義が民主主義の存在自体を脅かす限りは、合衆国は共産主義支配と警察国家支配の恐れがある欧州諸国を支持するに充分な力を維持せねばならない。

戦争防止の手段として軍事力を維持することが如何に重要か、我々は学んだはずである。我々は、平和を維持するには平時においても軍事体制の確立が必要であると知った。過去の侵略者らは、我が国の軍事力が欠如しているかに見えたのを良いことに、愚かにも戦争を引き起こした。彼らは我々の力を見くびったがために破滅したが、我々は備えを怠ってきたことに対する恐るべき代償を払わされた。

一般軍事訓練は唯一可能な手段であり、これにより、徴兵した一般国民を非常時の備えとして必要な水準にまで強化できる。有事の際に訓練された兵を多数動員する能力があれば、将来の対立に事前に対処できるし、国家政策における他の措置と共に、世界の安定を取り戻すことができる。

今この時に合衆国が一般軍事訓練を導入すれば、我々の決意が平和のための力で平和に意志を後退させることであるということの紛れもない証を、全世界に示せる。一般軍事訓練を導入するという決断を、議会を通じて米国民が示すことこそが、世界中のあらゆる自由な政府を鼓舞する上で最も重要であると、私は確信している。

第3に、我が軍の兵力を維持するために、選抜徴兵関連の暫定措置法を10本制定するよう勧告する。

我が軍には、兵力維持に必要な人員が不足している。我が軍は自発的入隊を通じては兵力を維持できなかった。兵力が我々の義務を海外で果たすに必要なまさに最低限度にまで低下し、米国本土で常に出動可能であるべき最低限度を遥かに下回ったにも拘らずである。

軍事力を維持しない限り、我々は国際的責任を果たせない。例えば、欧州平和が確保されるまでは、駐留軍をドイツに置き続けることが何としても必要である。

正規軍向けの選抜徴兵の必要条件と、予備役向けの一般軍事訓練の必要条件との間に、矛盾の余地はない。一般軍事訓練の確固たる基盤が確立できるまでは、選抜徴兵は必要である。その後は、選抜徴兵を終わらせ、志願兵を基盤とする正規軍を維持できよう。

私が行った勧告は、平和を保持し戦争を防止するための喫緊の措置を象徴している。

我々には、この大目的を実行するためにあらゆる賢明かつ必要な措置を取る覚悟が必要である。そのためには、他国への援助が求められる。充分かつ均衡ある軍事力が求められる。我々には平和の代償を払う覚悟が必要であり、さもなくば間違いなく戦争の代償を払うことになろう。

我々米国民は、可能な限りの手段によって、そして国際問題を解決するための正当かつ尊厳ある原則によって平和を探求するとの決意を持ち続けている。我々は、力でなく法に基づく国際安全保障のための重要手段として、国連を強く支持し続ける。我々は、今後も全ての国と協力するつもりであるし、そうあることを願っている――繰り返すが、全ての国とである――可能な限りの努力をして、国際的な理解と合意に至るためにも。

ソヴィエト連邦にも、平和維持に真摯に協力する如何なる国にも、門戸が閉ざされたことはないし、今後も閉ざされはしない。

同時に我々は、今日世界に立ちはだかる中心的諸問題について困惑してはならない。

今こそ、世界の自由な人々が自由への脅威に真っ向から勇敢に対峙すべき時である。

合衆国には、世界のために軍事力を行使するという大きな義務がある。我々は戦争に勝利するや否や、己の求める平和を得なければならないことを思い知った。それも希望的観測によってではなく、現実的努力によってである。

我が国史上、今ほど国民の結束が重要だった時代はない。

この任務を達成するには、目的の統一、努力の統一、そして魂の統一が欠かせない。

本日この議場に集う我々一人ひとりが、特別な責任を負っている。世界の現状は余りに危機的であり、この国の責任は余りに巨大である。いずれの党であろうとも、平和維持に対する我が国の影響力を弱めようとするのであれば、認める訳にはゆかない。

米国民には、政治的配慮は我々の協力に影響しないと考える権利がある。心底から無条件に、世界平和を維持するために連携すると考える権利がある。

神の助けを借りて、我々は必ずや成功してみせる。

訳註

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  1. アーサー・H・ヴァンデンバーグ(任1947年1月3日 - 1949年1月3日)。
  2. ジョーゼフ・W・マーティン(任1947年1月3日 - 1949年1月3日)。
  3. チェコスロヴァキアでは、共産党員閣僚の恣意的施策に反発した非共産党員の閣僚12名が1948年2月20日、一斉に辞表を提出した。これらの閣僚は、連袂辞任によってゴットヴァルト内閣を辞任に追い込み、共産党の影響力を排除することを目指していたが、その目論見は失敗し、共産党が主導する第2次ゴットヴァルト内閣が成立した(1948年のチェコスロバキア政変)。西欧的民主主義志向の強かったチェコスロヴァキアの共産化は、共産主義の脅威が間近に迫っていることを西欧や米国に印象付ける結果となった。
  4. 1947年11月17日から開かれていた第26回特別議会の最終日に当たる12月19日、トルーマンは特別教書を議会に提出した。教書の内容については、マーシャル・プランのためのハリー・S・トルーマンの特別教書演説を参照。
  5. イギリスフランスベルギーオランダ、及びルクセンブルク
  6. ブリュッセル条約を指す。北大西洋条約の前身ともいうべき条約である。ドイツの脅威を警戒する内容ではあるが、潜在敵国としてソ連を想定していたことは疑いない。佐々木雄太「ベヴィンの『西欧同盟』構想とNATO―戦後イギリス外交論序説 (2)」『大分大学経済論集』第32巻第1号、1980年、92-93頁。

底本

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