ふるさとの燭[編集]
心のなかにふるさとあり、
雑草の家は痩せたり。
庇傾きゆけば肋骨の軋り
柱石など歪形するセキズイの疼き。
かさこそとかさこそと壁土はくずれゆく。
破障子影めくは、
濡いろほのかなる燭。
父の燭、母の燭、そをめぐる兄弟三人の燭。
夜半の嵐遠ざかりゆけば、
すでに二人の姉の燭消えたり。
消えむとするなり。
消えんとするなり。
ああ今宵またしても消えむとす、
老いたる燭。いのちの燭。たつきの燭。
風かよ。泪かよ。
いたつきの窓にしみいるいみじきもの。
心のふるさと秋ふかくるるるると虫啼けり。