今小町
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今小町
作者:不詳
松の位に柳の姿。桜の花に梅が香《か》を、籠《こ》めてこぼるる愛嬌《あいけふ》は、月の雫《しづく》か萩の露の情《なさけ》に憧《あこが》れて、われも迷うや蝶々《てふ〳〵》の、恋しなん身のいく百夜《ももよ》、通う心は深草《ふかくさ》の、少将よりも浅からぬ、浅香《あさか》の沼の其処までも、引く手あまたの花あやめ。たとへ昔の唐人《からびと》の、山を抜《ぬ》くてふ力《ちから》もて、引くとも引《ひか》ぬ振袖《ふりそで》は、粋《すい》な世界の今小町。高き位の花なれば、思ふにかひも嵐山《あらしやま》。されど岩木《いはき》にあらぬ身の、意気な男の手管《てくだ》には、否《いな》にもあらぬ稲舟《いなふね》の沈みもやせん恋の渕。逢はぬ辛《つら》さに足曳《あしびき》の、山鳥の尾の長き日を、怨《うら》み喞《かこ》ちて人知れず、今宵《こよひ》逢う瀬の新枕《にひまくら》。積もる思ひの片糸《かたいと》も、解けてうれしき春の夢。
- 底本: 今井通郎『生田山田両流 箏唄全解』上、武蔵野書院、1975年。
この作品は1899年3月4日以前に公表されたもので、作者の死亡から100年以上経過しているため全世界でパブリックドメインの状態にあります。