マトフェイ伝06

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 なんぢつつしみて、ひとられんために、施濟ほどこし其前そのまへなかれ、しからずばてんいまなんぢちちよりむくいざらん。

 ゆゑ施濟ほどこしときは、善者ぜんしやひとよりほまれために、くわいだうおよ街衢ちまたおいすがごとく、おのれまへらつぱなかれ、われまことなんぢぐ、彼等かれらすでそのむくいく。

 なんぢ施濟ほどこしときなんぢひだりなんぢみぎところらしむるなかれ、

 なんぢ施濟ほどこしひそかならんためなり、しからばひそかなるをかんがみるなんぢちちあらはなんぢむくいん。

 なんぢいのとき善者ぜんしやごとくするなかれ、かれひとられんために、くわいだうおよ通衢ちまたすみちていのるをこのむ、われまことなんぢぐ、彼等かれらすでそのむくいく。

 なんぢいのときなんぢしつり、ぢて、ひそかなるところいまなんぢちちいのれ、しからばひそかなるをかんがみるちちあらはなんぢむくいん。

 またいのとき邦人はうじんごと贅語むだごとなかれ、けだし彼等かれらことばおほきをもつかれんとおもふ。

 彼等かれらならなかれ、けだしなんぢちちは、なんぢねがはざるさきに、なんぢもとむるところる。

 ゆゑなんぢくのごといのれ。てんいま我等われらちちよ、ねがはくはなんぢせいとせられ、

一〇 なんぢくにきたり、なんぢむねは、てんおこなはるゝがごとく、にもおこなはれん、

一一 日用にちようかて今日こんにち我等われらあたたまへ、

一二 我等われらおひめあるもの我等われらゆるすがごとく、我等われらおひめゆるたまへ、

一三 我等われらいざなひみちびかず、なほ我等われら凶悪きようあくよりすくたまへ、けだしくに権能けんのう光榮くわうえいなんぢ世世よよす、「アミン」。

一四 けだしなんぢひとそのあやまちゆるさば、なんぢてんちちなんぢにもゆるさん、

一五 ひとそのあやまちゆるさずば、なんぢちちなんぢあやまちゆるさゞらん。

一六 またなんぢものいみするとき善者ぜんしやごとうれはしきさまなかれ、けだし彼等かれらは、そのものいみひとあらはれんために、顔色かほいろそこなふ、われまことなんぢぐ、彼等かれらすでそのむくいく。

一七 なんぢものいみするときかうべあぶらぬり、おもてあらへ、

一八 なんぢものいみひとあらはれずして、ひそかなるところいまなんぢちちあらはれんためなり、しからばひそかなるをかんがみるなんぢちちあらはなんぢむくいん。

一九 なんぢためたからなかれ、此處ここにはしみさびそこなひ、此處ここにはぬすびと穿うがちてぬすむ。

二〇 すなはちなんぢためたからてんめ、彼處かしこにはしみさびそこなはず、彼處かしこにはぬすびと穿うがちてぬすまず。

二一 けだしなんぢたからところには、なんぢこころらん。

二二 ともしびなり、ゆゑなんぢきよからば、なんぢ全身ぜんしんあきらかならん、

二三 なんぢしからば、なんぢ全身ぜんしんくらからん、ゆゑなんぢうちひかりくらやみたらば、すなはちくらやみ如何いかにぞや。

二四 ひと二人ふたりしゅつかふるあたはず、けだしあるひこれにくみ、かれあいし、あるひこれおもんじ、かれかろんぜん、なんぢかみたからとにつかふるあたはず。

二五 ゆゑわれなんぢぐ、なんぢ生命いのちためなにくらひ、なにみ、なんぢ身體からだためなにんとおもんぱかなかれ、生命いのちかてよりおほいにして、身體からだころもよりおほいなるにあらずや。

二六 こゝろみ天空そらとりよ、彼等かれらかず、らず、くらまず、しかうしてなんぢてんちちこれやしなふ、なんぢ彼等かれらよりはなはだたつときにあらずや。

二七 かつなんぢうちたれおもんぱかりて、そのたけ一尺いつしやくだにぶるをん。

二八 ころもためにもなんおもんぱかる、こゝろみ百合ゆり如何いかにかちやうずるをよ、はたらかず、つむがず、

二九 しかれどもわれなんぢぐ、ソロモンその榮華えいぐわきはみおいて、そのころもなほはなひとつおよばざりき、

三〇 今日こんにちり、明日みやうにちゐろりげらるゝくさにも、かみすれば、いはんなんぢをや、小信せうしんものよ。

三一 ゆゑおもんぱかりて、我等われらなにくらひ、あるひなにみ、あるひなにんとなかれ、

三二 けだしみな邦人はうじんもとむるところなり、なんぢてんちちこれものみななんぢ必要ひつえうなるをる。

三三 なんぢかみくにそのとをもとめよ、しからばこれものみななんぢくははらん。

三四 ゆゑ明日みやうにちことおもんぱかなかれ、けだし明日みやうにちみづかおのれことおもんぱからん、一日いちにち心労しんらう一日いちにちためれり。