シリヤの聖イサアク全書/第二十二説教

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第22説教

<< 試（し）惑（わく）を恐（おそ）るる身体（しんたい）は罪（つみ）の友（とも）となる。>>

或（あ）る聖人（せいじん）は言（い）へり、試（し）惑（わく）を恐（おそ）るる身体（しんたい）は、之（これ）を極（きょく）度（ど）に至（いた）らしめて、其（その）生命（いのち）を奪（うば）はれんことを恐（おそ）るるが故（ゆえ）に罪（つみ）の友（とも）となると。故（ゆえ）に聖神（せいしん）は彼（かれ）に死（し）すべきを奨励（しょうれい）す。けだし死（し）せずんば罪（つみ）に勝（か）たざるべきを知（し）ればなり。もし誰（たれ）か主（しゅ）の住（やど）り給（たま）はんことを欲（ほつ）せば、主（しゅ）に事（つか）ふるに其（その）身（み）を強（し）ひ、使徒（しと）が書（しる）せる神（しん）の誡命（かいめい）の為（ため）に労（ろう）して、其（その）霊魂（れいこん）を使徒（しと）が録（しる）したる肉慾（にくよく）の行（おこない）より守（まも）るべし〔ガラティヤ五の十九〕。罪（つみ）に関係（かんけい）する身（み）は肉慾（にくよく）の行（おこない）に安（やす）んずるも、神（かみ）の神（しん）は罪（つみ）の結果（けっか）に安（やす）んじ給（たま）はざるなり、けだし身体（しんたい）が禁食（きんしょく）と謙遜（けんそん）との為（ため）に弱（よわ）る時（とき）は霊魂（れいこん）は祈（き）祷（とう）を以（もつ）て強（つよ）めらるるなり。身体（しんたい）が黙想（もくそう）の苦（く）阨（やく）に多（おほ）く虐（しいた）げられ、剥奪（はくだつ）と欠乏（けつぼう）とを忍耐（にんたい）して、其（その）生命（せいめい）をも殆（ほとん）ど失（うしな）はんとするときは、汝（なんぢ）に嘆願（たんがん）して左（さ）の如（ごと）く言（い）ふを常（つね）とす、曰（いは）く『相当（そうとう）に生存（せいぞん）する自（じ）由（ゆう）を少（すこ）しく予（よ）に與（あた）へよ、今（いま）や予（よ）は正（ただ）しく行（ゆ）かん、何（なん）となれば不（ふ）幸（こう）を以（もつ）て試（こころ）みられたればなり』と。然（しか）るに彼（かれ）に同情（どうじょう）を表（ひょう）し、彼（かれ）を其（その）阨（やく）より安（やす）んぜしめて、多（た）少（しょう）の安息（あんそく）を彼（かれ）に與（あた）ふるならば、彼（かれ）は暫（ざん）時（じ）は安（やす）んずといへども漸々（ぜんぜん）媚（こび）を呈（てい）して、汝（なんぢ）に耳語（じご）し、（彼（かれ）の媚（こび）は甚（はなは）だ有力（ゆうりょく）なり）汝（なんぢ）を野（の）より離（はな）れしめんが為（ため）に、汝（なんぢ）に告（つ）げて言（い）はん、『世（よ）の近（ちか）きに居（お）るも好（よ）く生活（せいかつ）するを得（う）べし、何（なん）となれば多（おほ）くの事（こと）に試（こころ）みられたるによる、故（ゆえ）に彼処（かしこ）に於（おい）ても今日（こんにち）導（みちび）かるると同様（どうよう）の規（き）則（そく）を以（もつ）て生活（せいかつ）するを得（え）ん。ただ予（よ）を試（こころ）みよ、もし予（よ）は汝（なんぢ）の意（い）に適（てき）するものとならざるときは汝（なんぢ）は帰（かえ）るを得（え）ん。視（み）よ野（の）は我（われ）等（ら）より逃亡（とうぼう）せざるなり』と。彼（かれ）は大（おほい）に嘆願（たんがん）し、多（おほ）く約束（やくそく）を與（あた）ふるも、彼（かれ）を信（しん）ずるなかれ。彼（かれ）は言（い）ふ所（ところ）を履（り）行（こう）せざるなり。彼（かれ）の願（ねがい）に応（おう）ずるときは汝（なんぢ）を大（だい）なる堕（だ）落（らく）に投（とう）じ、起（たつ）て出（いで）来（きた）る能（あた）はざるに至（いた）らん。

試（し）惑（わく）により煩悶（はんもん）を生（しょう）じて、之（これ）に満（み）たさるるときは、自己（じこ）に告（つ）げて言（い）ふべし、『汝（なんぢ）は不（ふ）潔（けつ）と耻（は）づべき生活（せいかつ）とを再（ふたた）び渇望（かつぼう）す』と。然（しか）るにもし肉体（にくたい）は汝（なんぢ）に告（つ）げて『大（おほい）なる罪（つみ）は自（みづ）から己（おのれ）を殺（ころ）さん』と言（い）はば答（こたへ）て言（い）ふべし、『予（よ）は己（おのれ）を殺（ころ）さん、何（なん）となれば不（ふ）潔（けつ）に生活（せいかつ）する能（あた）はざればなり。ここに予（よ）の死（し）するは、予（よ）が霊魂（れいこん）の眞（まこと）の死（し）と神（かみ）の為（ため）に死（し）するとを再（ふたた）び見（み）ざらん為（ため）なり。予（よ）は寧（むし）ろ此（この）処（ところ）に放蕩（ほうとう）の為（ため）に死（し）して、悪（あく）生命（せいめい）を以（もつ）て世（よ）に活（い）きざらん。予（よ）は己（おのれ）の罪（つみ）の為（ため）に此（この）死（し）を自（じ）由（ゆう）に撰擇（せんたく）せり。己（おのれ）を殺（ころ）さん、何（なん）となれば予（よ）は主（しゅ）に罪（つみ）を犯（おか）したればなり、復（ふたた）び彼（かれ）を怒（いか）らしめざらん。神（かみ）より遠（とほ）ざかる生命（いのち）を予（よ）は如何（いか）にすべきか。此（これ）等（ら）の残骸（ざんがい）を忍（しの）ばん、天（てん）の希（き）望（ぼう）より離（はな）れざらん為（ため）なり。もし世（よ）に悪（あし）く生活（せいかつ）して神（かみ）を怒（いか）らすならば、此（この）世（よ）に於（おけ）る予（よ）の生命（せいめい）を神（かみ）は如何（いか）にすべきや』。