「清国ニ対スル宣戦ノ詔勅」の版間の差分
編集の要約なし |
編集の要約なし |
||
81行目: | 81行目: | ||
*底本中の旧字を新字に改めた。 |
*底本中の旧字を新字に改めた。 |
||
*二の字点は「〻」を用いて表記した。 |
*二の字点は「〻」を用いて表記した。 |
||
== 注釈 == |
|||
天佑を保全し、万世一系の皇位を受け継いだ大日本帝国の皇帝は、 忠実にして勇武なる汝ら、国民に示す。 |
|||
朕は、ここに、清国に対して宣戦を布告する。 |
|||
朕の政府関係者・官僚・役人のすべて は、よろしく朕の意を体し、陸上にあっても海上にあっても、清国に対して交戦に従事し、それをもって国家の目的を達成するよう努力すせよ。 |
|||
いやしくも 国際法に抵触しない限り、各員、その立場と能力に応じて、あらゆる手段をつくして 漏れ落ちるところの無いように心を定めよ。 |
|||
朕が深く考えるに、朕の即位以来、二十有余年の間、文明開化を平和な治世のうち に求め、外国と事を構えることは、極めてあってはならないことと信じ、政府に対し て、常に友好国と友好関係を強くするよう努力させてきた。 |
|||
さいわいに、諸国との 交際は、年をおうごとに親密さを加えてきた。 |
|||
にもかかわらず清国が、朝鮮事件によって日本に対し、日本側の隠すところのない友好関係にそむき、信義を失なわせる挙に出ようとは、どうして予測できたであろう。 |
|||
朝鮮は、日本が、そのはじめより、導き誘って諸国の仲間となした一独立国である。 |
|||
しかし清国は、ことあるごとに自ら朝鮮を属国であると主張し、陰に陽に朝鮮 に内政干渉し、そこに内乱が起こるや、属国の危機を救うという口実で朝鮮に対し出兵した。 |
|||
朕は、明治15年の済物浦条約により、朝鮮に兵を出して事変に備えさせ、更に朝鮮から戦乱を永久になくし、将来にわたって治安を保ち、それをもって東洋全域の平和を維持しようと欲し、まず清国に(朝鮮に関しては)協同で事にあたろうと告げたのだが、清国は態度を変え続け、さまざまないい訳をもうけて、この提案を拒んだ。 |
|||
日本は、そのような情勢下で、朝鮮に対して、その悪政を改革し、国内では治安の 基盤を堅くし、対外的には独立国の権利と義務を全うすることを勧め、朝鮮は、既に その勧めを肯定し受諾したのにもかかわらず、清国は終始、裏にいて、あらゆる方面 から、その目的を妨害し、それどころか言を左右にしながら口実をもうけて、時間をかせぐ一方、清国の水陸の軍備を整え、それが整うや、ただちに その戦力をもって、(朝鮮征服の)欲望を達成しようとし、更に大軍を朝鮮半島に 派兵し、我が海軍の艦を黄海に要撃し、ほとんど 壊滅の極となった。 |
|||
すなわち、清国の計略は、あきらかに朝鮮国の治安の責務をになうものとしての日本を否定し、日本が率先して、独立諸国の列に加えた朝鮮の地位を、それらを明記した「天津条約」と共に、めくらましとごまかしの中に埋没させ、帝国の権利、利益 に損害を与え、東洋の永続的な平和を保障できなくすることにある。 |
|||
これは疑いよう がない。よくよく清国の為す所に関して、そのたくらみごとのありかを深く洞察するならば、実に最初から清国は、朝鮮はじめ東洋の平和を犠牲にしてでも、その非情な野望を遂げようとしていると言わざるをえない。 |
|||
事は既に、ここまできてしまった。 |
|||
朕は、平和であることに終始し、もって帝国の栄光を国内外にはっきりと顕現させることに専念しているけれど、その一方で、公式に宣戦布告する。 |
|||
汝ら、国民の忠実さと勇武さに寄り頼み、すみやかに、この戦争に勝って、以前と同じ平和を恒久的に 取り戻し、帝国の栄光を全うすることを決意する。 |
|||
== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
2014年1月17日 (金) 08:43時点における版
清国ニ対スル宣戦ノ詔勅(しんこくにたいするせんせんのしょうちょく)
- 件名:
- 清国ニ対スル宣戦ノ件/淸國ニ對スル宣戰ノ件(しんこくにたいするせんせんのけん) - 『官報目録』
- 清国ニ対シ宣戦/淸國ニ對シ宣戰(しんこくにたいしせんせん) - 『法令全書』
- 明治27年8月1日詔勅
この著作物は、日本国著作権法10条2項又は13条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同法10条2項及び13条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。
- 憲法その他の法令
- 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
- 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
- 上記いずれかのものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの
- 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道
この著作物は、米国政府、又は他国の法律、命令、布告、又は勅令等(Edict of governmentも参照)であるため、ウィキメディアサーバの所在地である米国においてパブリックドメインの状態にあります。“Compendium of U.S. Copyright Office Practices”、第3版、2014年の第313.6(C)(2)条をご覧ください。このような文書には、“制定法、裁判の判決、行政の決定、国家の命令、又は類似する形式の政府の法令資料”が含まれます。
旧字体
天佑ヲ保全シ萬世一系ノ皇祚ヲ踐メル大日本帝國皇帝ハ忠實勇武ナル汝有衆ニ示ス
朕茲ニ淸國ニ對シテ戰ヲ宣ス朕カ百僚有司ハ宜ク朕カ意ヲ體シ陸上ニ海面ニ淸國ニ對シテ交戰ノ事ニ從ヒ以テ國家ノ目的ヲ達スルニ努力スヘシ苟モ國際法ニ戾ラサル限リ各〻權能ニ應シテ一切ノ手段ヲ盡スニ於テ必ス遺漏ナカラムコトヲ期セヨ
惟フニ朕カ即位以來茲ニ二十有餘年文明ノ化ヲ平和ノ治ニ求メ事ヲ外國ニ構フルノ極メテ不可ナルヲ信シ有司ヲシテ常ニ友邦ノ誼ヲ篤クスルニ努力セシメ幸ニ列國ノ交際ハ年ヲ逐フテ親密ヲ加フ何ソ料ラム淸國ノ朝鮮事件ニ於ケル我ニ對シテ著著鄰交ニ戾リ信義ヲ失スルノ擧ニ出テムトハ
朝鮮ハ帝國カ其ノ始ニ啓誘シテ列國ノ伍伴ニ就カシメタル獨立ノ一國タリ而シテ淸國ハ每ニ自ラ朝鮮ヲ以テ屬邦ト稱シ陰ニ陽ニ其ノ內政ニ干涉シ其ノ內亂アルニ於テ口ヲ屬邦ノ拯難ニ籍キ兵ヲ朝鮮ニ出シタリ朕ハ明治十五年ノ條約ニ依リ兵ヲ出シテ變ニ備ヘシメ更ニ朝鮮ヲシテ禍亂ヲ永遠ニ免レ治安ヲ將來ニ保タシメ以テ東洋全局ノ平和ヲ維持セムト欲シ先ツ淸國ニ吿クルニ協同事ニ從ハムコトヲ以テシタルニ淸國ハ翻テ種々ノ辭抦ヲ設ケ之ヲ拒ミタリ帝國ハ是ニ於テ朝鮮ニ勸ムルニ其ノ秕政ヲ釐革シ內ハ治安ノ基ヲ堅クシ外ハ獨立國ノ權義ヲ全クセムコトヲ以テシタルニ朝鮮ハ既ニ之ヲ肯諾シタルモ淸國ハ終始陰ニ居テ百方其ノ目的ヲ妨碍シ剰ヘ辭ヲ左右ニ托シ時機ヲ緩ニシ以テ其ノ水陸ノ兵備ヲ整ヘ一旦成ルヲ吿クルヤ直ニ其ノ力ヲ以テ其ノ欲望ヲ達セムトシ更ニ大兵ヲ韓土ニ派シ我艦ヲ韓海ニ要擊シ殆ト亡狀ヲ極メタリ則チ淸國ノ計圖タル明ニ朝鮮國治安ノ責ヲシテ歸スル所アラサラシメ帝國カ率先シテ之ヲ諸獨立國ノ列ニ伍セシメタル朝鮮ノ地位ハ之ヲ表示スルノ條約ト共ニ之ヲ蒙晦ニ付シ以テ帝國ノ權利利益ヲ損傷シ以テ東洋ノ平和ヲシテ永ク擔保ナカラシムルニ存スルヤ疑フヘカラス熟〻其ノ爲ス所ニ就テ深ク其ノ謀計ノ存スル所ヲ揣ルニ實ニ始メヨリ平和ヲ犧牲トシテ其ノ非望ヲ遂ケムトスルモノト謂ハサルヘカラス事既ニ茲ニ至ル朕平和ト相終始シテ以テ帝國ノ光榮ヲ中外ニ宣揚スルニ專ナリト雖亦公ニ戰ヲ宣セサルヲ得サルナリ汝有衆ノ忠實勇武ニ倚賴シ速ニ平和ヲ永遠ニ克復シ以テ帝國ノ光榮ヲ全クセムコトヲ期ス
御名御璽
內閣總理大臣 | 伯爵 | 伊藤博文 |
遞信大臣 | 伯爵 | 黑田淸隆 |
海軍大臣 | 伯爵 | 西鄕從道 |
內務大臣 | 伯爵 | 井上 馨 |
陸軍大臣 | 伯爵 | 大山 巖 |
農商務大臣 | 子爵 | 榎本武揚 |
外務大臣 | 陸奧宗光 | |
大藏大臣 | 渡邊國武 | |
文部大臣 | 井上 毅 | |
司法大臣 | 芳川顯正 |
- 底本: 『官報』号外、1894年(明治27年)8月1日
- 底本中の旧字を可能な範囲で再現した。底本で新字が用いられている箇所は底本通り表記した。
- 註: 以下のリストに掲載される漢字はJIS X 0208外の異体字であり、Unicode表のBMP(基本多言語面、0面)が正しく表示できない環境によっては正しく記されない可能性がある。尚U+FA30からU+FA60の文字は、JIS X 0213対応のフォント(IPAフォント等)による記述を行っている。
- 凡例
- 親字 → 異体字 (Unicode番号) ; 異体字の説明。
- 内 → 內 (U+5167) ; 「人」の部分が「入」となる字形
- 告 → 吿 (U+543F) ; 「靠」の「非」を除いた字形
- 戻 → 戾 (U+623E) ; 「戸」の部分の1、2画目が「斤」の1、2画目となり、「大」の部分が「犬」となる字形
- 撃 → 擊 (U+64CA) ; 「車」の部分を「午」から「缶」と書くように2画を足す字形
- 毎 → 每 (U+6BCF) ; 「毋」の部分が「母」となる字形
- 渉 → 涉 (U+6D89) ; 10画目を除いた字形
- 状 → 狀 (U+72C0) ; 偏が「爿」となる字形
- 頼 → 賴 (U+8CF4) ; 8、9画目が「刀」となる字体
- 隆 → 隆 (U+F9DC) ; 「嶐」の「山」を除いた部分
- 益 → 益 (U+FA17) ; 「縊」の旁部分となる字形
- 諸 → 諸 (U+FA22) ; 「者」の部分が「偖」の旁部分となる字形
- 免 → 免 (U+FA32) ; 「俛」の旁部分となり、1、2画目の部分が「刀」となる字形
- 既 → 既 (U+FA42) ; 「漑」の旁部分となる字形
- 海 → 海 (U+FA45) ; 「毋」の部分が「母」となる字形
- 禍 → 禍 (U+FA52) ; 偏が「示」となる字形
- 著 → 著 (U+FA5F) ; 「者」の部分が「偖」の旁部分となる字形
- 難 → 難 (U+FA68) ; 艸冠が「廿」となり、9画目が上に飛び出る字形
- 二の字点は「〻」を用いて表記した。
新字体
天佑ヲ保全シ万世一系ノ皇祚ヲ践メル大日本帝国皇帝ハ忠実勇武ナル汝有衆ニ示ス
朕茲ニ清国ニ対シテ戦ヲ宣ス朕カ百僚有司ハ宜ク朕カ意ヲ体シ陸上ニ海面ニ清国ニ対シテ交戦ノ事ニ従ヒ以テ国家ノ目的ヲ達スルニ努力スヘシ苟モ国際法ニ戻ラサル限リ各〻権能ニ応シテ一切ノ手段ヲ尽スニ於テ必ス遺漏ナカラムコトヲ期セヨ
惟フニ朕カ即位以来茲ニ二十有余年文明ノ化ヲ平和ノ治ニ求メ事ヲ外国ニ構フルノ極メテ不可ナルヲ信シ有司ヲシテ常ニ友邦ノ誼ヲ篤クスルニ努力セシメ幸ニ列国ノ交際ハ年ヲ逐フテ親密ヲ加フ何ソ料ラム清国ノ朝鮮事件ニ於ケル我ニ対シテ著著鄰交ニ戻リ信義ヲ失スルノ挙ニ出テムトハ
朝鮮ハ帝国カ其ノ始ニ啓誘シテ列国ノ伍伴ニ就カシメタル独立ノ一国タリ而シテ清国ハ毎ニ自ラ朝鮮ヲ以テ属邦ト称シ陰ニ陽ニ其ノ内政ニ干渉シ其ノ内乱アルニ於テ口ヲ属邦ノ拯難ニ籍キ兵ヲ朝鮮ニ出シタリ朕ハ明治十五年ノ条約ニ依リ兵ヲ出シテ変ニ備ヘシメ更ニ朝鮮ヲシテ禍乱ヲ永遠ニ免レ治安ヲ将来ニ保タシメ以テ東洋全局ノ平和ヲ維持セムト欲シ先ツ清国ニ告クルニ協同事ニ従ハムコトヲ以テシタルニ清国ハ翻テ種々ノ辞抦ヲ設ケ之ヲ拒ミタリ帝国ハ是ニ於テ朝鮮ニ勧ムルニ其ノ秕政ヲ釐革シ内ハ治安ノ基ヲ堅クシ外ハ独立国ノ権義ヲ全クセムコトヲ以テシタルニ朝鮮ハ既ニ之ヲ肯諾シタルモ清国ハ終始陰ニ居テ百方其ノ目的ヲ妨碍シ剰ヘ辞ヲ左右ニ托シ時機ヲ緩ニシ以テ其ノ水陸ノ兵備ヲ整ヘ一旦成ルヲ告クルヤ直ニ其ノ力ヲ以テ其ノ欲望ヲ達セムトシ更ニ大兵ヲ韓土ニ派シ我艦ヲ韓海ニ要撃シ殆ト亡状ヲ極メタリ則チ清国ノ計図タル明ニ朝鮮国治安ノ責ヲシテ帰スル所アラサラシメ帝国カ率先シテ之ヲ諸独立国ノ列ニ伍セシメタル朝鮮ノ地位ハ之ヲ表示スルノ条約ト共ニ之ヲ蒙晦ニ付シ以テ帝国ノ権利利益ヲ損傷シ以テ東洋ノ平和ヲシテ永ク担保ナカラシムルニ存スルヤ疑フヘカラス熟〻其ノ為ス所ニ就テ深ク其ノ謀計ノ存スル所ヲ揣ルニ実ニ始メヨリ平和ヲ犠牲トシテ其ノ非望ヲ遂ケムトスルモノト謂ハサルヘカラス事既ニ茲ニ至ル朕平和ト相終始シテ以テ帝国ノ光栄ヲ中外ニ宣揚スルニ専ナリト雖亦公ニ戦ヲ宣セサルヲ得サルナリ汝有衆ノ忠実勇武ニ倚頼シ速ニ平和ヲ永遠ニ克復シ以テ帝国ノ光栄ヲ全クセムコトヲ期ス
御名御璽
内閣総理大臣 | 伯爵 | 伊藤博文 |
逓信大臣 | 伯爵 | 黒田清隆 |
海軍大臣 | 伯爵 | 西郷従道 |
内務大臣 | 伯爵 | 井上 馨 |
陸軍大臣 | 伯爵 | 大山 巌 |
農商務大臣 | 子爵 | 榎本武揚 |
外務大臣 | 陸奥宗光 | |
大蔵大臣 | 渡辺国武 | |
文部大臣 | 井上 毅 | |
司法大臣 | 芳川顕正 |
- 底本: 『官報』号外、1894年(明治27年)8月1日
- 底本中の旧字を新字に改めた。
- 二の字点は「〻」を用いて表記した。
外部リンク
- 御署名原本(国立公文書館)
- 『明治二十七年 法令全書』