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目を見合せ。はし取あくべきやうもなく。世にもぶきやう げなる時。きくふとかうべをもたげ。あれ〳〵かさねは出て ゆくはといゝて。そのまゝ起（おき）なをり。気色（きしよく）快気（くわいき）してけれ ば。法蔵寺も二人の俗（ぞく）も。こゝろよく斎（とき）を行（おこな）ひ悦（よろこ） びいさんでみな〳〵我が屋に帰らるれば。きくが氣色（きしよく） も弥（いよ〳〵）本復（ほんぶく）して。杖（つえ）にすがり村中の子共を引つれ。菩（ぼ） 提（だい）所法蔵寺は申に及ばす。其外近里（きんり）の寺（てら）道場（だうぢやう）へ。日〻 に参詣（さんけい）し。いつの間（ま）にならひ得たりけん。念佛鉦鼓（しやうご）の ほどひやうし。あまりとうとく聞へければ人〻不審（しん）し あへるは。誠に浄土（じやうと）の佛（ぶつ）ぼさつ。尼（あま）になれとのおゝせに て。其守護（しゆご）にもやあるらんと。皆〻きいのおもひをなし 男女老少（らうせう）あつまり。此きくを先達（せんだつ）にて。ひがん中の念 佛。隣郷（りんごう）他郷（たごう）にひゞきわたる。其外（そのほか）家〻（いへ〳〵）にて修（しゆす）る事（こと） は。昼夜（ちうや）昏暁（こんきやう）の差別（しやべつ）なく。思ひ〳〵の佛事（ぶつじ）作善（さぜん）心（こゝろ） 心の法事（ほうじ）供養（くやう）。日を追（おつ）てさかんなれば諸人（しよにん）得道（とくだう） の能（よき）因縁（いんゑん）とぞ聞へける