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見づぎ申べしと。ことうけすれば。其時和尚もきげんよく 急（いそ）ぎ寺に帰（かへ）りつゝ。すぐに方丈（はうぢやう）へ行たまひ。納所（なつしよ）經傳（きやうてん） に近付。夜前（やぜん）の灵魂（れいこん）はいよ〳〵去。菊は本復（ほんぶく）したれども 衣食（ゑじき）倶（とも）に貧（まづ）しければ。命をさそふるたよりなし。爾るに かれを存命（そんめい）さするならば。多（おほ）くの人の化益（けやく）なるへし。なに とぞ命を扶（たす）けたく思ふに。先（まつ）各〻（をの〳〵）も古着（ふるぎ）のあらば 一つあてとらせよ。我も一つはおくるべし。さて方丈の御膳（ぜん） 米をかゆにたかせあたへたく思ふなどして寮（りやう）に帰（かへ）り給ふ時 方丈はらうかにたちやすらひ。此事を聞し召納所（なつしよ）を近（ちか） 付（つけ）仰せられしは。実（げ）にもかのものゝいふごとく。此女のいのち は大切なるぞや。それ〳〵の用意（ようい）してつかはせ。さて是をは だにきせよとてかたしけなくも上にめされしさやの御 小袖（こそで）を。ぬがせたまひ下しつかはされける時。名主年寄 兩人を急度めし寄（よせ）られ。直（じき）に仰らるゝは。汝らよく合（がつ） 點（てん）して。菊が命を守（まも）るべし。其（その）ゆへは我〻經釈（きやうしやく）をつ たへて。千万人（せんまんにん）度（ど）すれども。皆是（みなこれ）道理至極（だうりしごく）の分（ぶん）にし て。いまだ現證（げんしやう）を顕（あらは）さず。爾るに此女は。直に地獄（ぢこく）極（こく） 楽（らく）を見てよく因果（ゐんぐわ）を顕す者なれば。万（ばん）人化益（けやく）の 證拠（しやうこ）なり。随分（ずいぶん）大切（せつ）に介抱（かいほう）せよ。なをざりにもてなし 死（し）なせたるなど聞ならば。此弘經寺（ぐきやうじ）が怨念（おんねん）汝（なんぢ）らにかゝる べし。とはげしく教訓（けうくん）したまへば。二人の者どもなみだ をながし。畏（かしこまつ）て御前を立。急き羽生へ帰りつゝ。方丈