「大塚徹・あき詩集/琉球の女」の版間の差分

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琉球の女

杏の実の匂うたそがれ<br>
私は 風の贈物をうけよう。

蒼白い月<ruby>光<rp>(</rp><rt>かげ</rt><rp>)</rp></ruby>にぬれて<br>
デイゴの樹にまつわる<br>
夜潮のささやきを聞こう。

この春 この貧しい町におとずれて<br>
眉のほそい 琉球の女たちは<br>
蛇皮線を弾いて 異国の酒を売った。

鼓を打ち、笛の音にあわせて<br>
エキゾチックな 色あざやかな歌々を<br>
かの日の 疲れはて 青ざめた<br>
娘子軍の<ruby>愛<rp>(</rp><rt>かな</rt><rp>)</rp></ruby>しい踊りよ!<br>
(その<ruby>虚洞<rp>(</rp><rt>うつろ</rt><rp>)</rp></ruby>な瞳は穹を眺めて<br>
 遠くふるさとの老婆の姿が消えた)

杏の実の匂うたそがれ<br>
私は この漂泊の人達のかなしみをよせて<br>
熱帯の強烈な酒に酔いしれよう。<br>
私は 風の贈物をうけよう。

(昭和4年、炬火)

2019年1月3日 (木) 13:57時点における版


琉球の女

杏の実の匂うたそがれ
私は 風の贈物をうけよう。

蒼白い月かげにぬれて
デイゴの樹にまつわる
夜潮のささやきを聞こう。

この春 この貧しい町におとずれて
眉のほそい 琉球の女たちは
蛇皮線を弾いて 異国の酒を売った。

鼓を打ち、笛の音にあわせて
エキゾチックな 色あざやかな歌々を
かの日の 疲れはて 青ざめた
娘子軍のかなしい踊りよ!
(その虚洞うつろな瞳は穹を眺めて
 遠くふるさとの老母の姿が消えた)

杏の実の匂うたそがれ
私は この漂白の人達のかなしみをよせて
熱帯の強烈な酒に酔いしれよう。
私は 風の贈物をうけよう。

〈昭和四年、炬火〉