「Page:Poetry anthology of Toru Otsuka and Aki Otsuka.pdf/8」の版間の差分

提供:Wikisource
Sat.d.h. (トーク | 投稿記録)
編集の要約なし
Sat.d.h. (トーク | 投稿記録)
編集の要約なし
ページ本文(参照読み込みされます):ページ本文(参照読み込みされます):
1行目: 1行目:
== 北海の蟹 ==
<section begin="crab"/>== 北海の蟹 ==
<poem>
<poem>
陽に興じては
陽に興じては
29行目: 29行目:
{{right|〈昭和四年、愛誦〉}}
{{right|〈昭和四年、愛誦〉}}
</poem>
</poem>
<section end="crab"/>
== 琉球の女 ==
<section begin="ryukyu"/>== 琉球の女 ==
<poem>
<poem>
杏の実の匂うたそがれ
杏の実の匂うたそがれ
55行目: 56行目:
{{right|〈昭和四年、炬火〉}}
{{right|〈昭和四年、炬火〉}}
</poem>
</poem>
<section end="ryukyu"/>
== 北海の蟹 ==
<section begin="storm"/>== 暴風 ==
<poem>
<poem>
  A
  A
76行目: 78行目:
{{right|〈昭和四年、炬火〉}}
{{right|〈昭和四年、炬火〉}}
</poem>
</poem>
<section end="storm"/>

2019年1月3日 (木) 13:51時点における版

このページはまだ校正されていません

16

== 北海の蟹 ==

陽に興じては
花粉のごとく風にながれ
たそがてにおどろきては
鳥のごとく巣にかえる
あわれ友よ
今日もまた旅をゆくか

海あらき
北国の大いなる蟹を
ふるさとのわれに送りきたれり

(この蟹のかお(判読困難)
恐げに 醜く
毒気あり
食えばかならず死すならむ―)
おどけたる手紙をよみて
恐れを抱きしごと
わが家の妻も児どもも食わずと言う。

北海にそだちし蟹は
今宵 南海の
つれなき男に 食われいる

おどけたる友よ
毒気ある蟹は
美味うまし。

〈昭和四年、愛誦〉

== 琉球の女 ==

杏の実の匂うたそがれ
私は 風の贈物をうけよう。

蒼白い月かげにぬれて
デイゴの樹にまつわる
夜潮のささやきを聞こう。

この春 この貧しい町におとずれて
眉のほそい 琉球の女たちは
蛇皮線を弾いて 異国の酒を売った。

鼓を打ち、笛の音にあわせて
エキゾチックな 色あざやかな歌々を
かの日の 疲れはて 青ざめた
娘子軍のかなしい踊りよ!
(その虚洞うつろな瞳は穹を眺めて
 遠くふるさとの老母の姿が消えた)

杏の実の匂うたそがれ
私は この漂白の人達のかなしみをよせて
熱帯の強烈な酒に酔いしれよう。
私は 風の贈物をうけよう。

〈昭和四年、炬火〉

== 暴風 ==

  A
かぜ
空とおく
かもめをちらし
かぜ
磯松を裂きて
われらに迫る。


  B
ああ ひょうひょうと
読経よ!
泡立つ墓地よ!
今宵 幾艘の舟を呑みて
幾多の命を埋むることか。


〈昭和四年、炬火〉

17