一 四季の御狩は武將の御役目にて御座候、其外御遊興一通りにて御座候得共、御用捨被㆑遊候事專一、江戶近在殊の外困窮仕候事、逐一に御存知不㆑被㆑遊候御事、是は御遊をさまたげ申候樣に似候得共、御鷹野より外に御樂に成候事餘にも可㆑有㆓御座㆒と奉㆑存候、只興を御慰に被㆑遊候はゞ、是より外に御遊興有㆓御座㆒間敷候、御遊山の爲に人民困め給ひ、御樂には被㆑爲㆑成間敷御事に奉㆑存候、人間の歡は天の御歡と承り候へ共、富るも不㆑奢、貧も不㆑恨、千々のこと草迄武門の美景を照し給はんは、無上之御樂と乍㆑恐奉㆑存候、頃日世話の風說に、御鷹野は假令の御事にて、備立人數あつかひ等被㆑遊、采配を以御人數を御仕ひ御ならし被㆑遊候趣專風聞仕候、四季の御狩は軍ならし被㆑遊候由に御座候へば、乍㆑恐御尤千萬奉㆑存候、然共今之御采配にて御自由に御人數御仕ひ被㆑遊候は業の采配にて、生死の場に於て誠の御用には立不㆑申候、前々申上候人を撓て御仕ひ被㆑遊候にて御座候、眞の采配にあらざれば、眞服の人を仕ふ事不㆑成ものに御座候、則奉献之采配を餘流と御たくらべ御感味可㆑被㆑遊事
一 神佛をおろそかに被㆑爲㆑成候樣に申候、乍㆑恐國家を御保被㆑遊候道具の一部にて御座候を、御心得不㆑被㆑遊候と相見へ申候、士農工商の四民を以て國の機とし、神佛儒醫の四道を以國の慣として、天下は治るものに御座候、其眞理は御守行の上にて明に知申候事に御座候、機慣全甲乙なく揃はざれば、國病難治片荷を附る馬のごとく、つり合ざるものに御座候
一 金銀は片寄安きものにて、多有所へ段々集り、少くとぼしき所は間も無滅するものにて御座候へ共、上より隨分融通自由に成候に御心を不㆑被㆑附候へば、兎角すくみ安きものにて御座候、是困窮と豐成の境にて御座候、只今新金、新銀、四寳銀等の御引替に付大分位の高下出來、其位違の所皆々上の御德用と相成候、旁以金銀の通用不自由成折柄、又候金銀の公事御取上無㆑之、彌すくみと成候故、日本困窮仕、めた〳〵と間もなく世上つまりと罷成候、別て銀子のみの通用仕國々は、大名小名悉く手詰に相成、近年御奉公向の事に付て困窮仕たる大名は及㆑見不㆑申候、殊更に大名小名の困窮程公儀の御損は無㆓御座㆒候、近可㆓申上㆒なれば、江戶惣門所々の御番所、或は京、大坂、駿府御番所等の御番人士列の者は大槪家來にて、步行以下の者共は皆々當分雇ひの日雇を以て番人に拵置候事、萬一少少御急󠄁變も御座候時、何の御用にか立可㆑申、士計にて四具の羽翼調はざれば、羽ぬけ鳥のごとくにて、一虎口も持るゝものにては無㆓御座㆒候、いかに御靜謐の御代とは申ながら、平生戰場、戰場平生と御座候へば、餘り御油斷千萬不心掛の至に乍㆑恐奉㆑存候、一を以て萬を知るにて御座候へば、此外共に武備の薄成事御賢察可㆑被㆑遊候、歷々の武士たるもの、近年はちと身を持たる町人方へ文通仕候に、大槪大方樣付の書通にて御座候、或は出會の節の挨拶等を承候に、互に殿付の口上に、武士町人の境も難㆓見分㆒、一座族間に御座候、是全く餘之儀にては無㆓御座㆒候、武威薄く成候證據にて御座候、何とやらん町人のかげにて武士も立候樣に覺、町人も我等が用を達するゆへに、武士も立候ほどと申族多、扨々苦々敷事と奉㆑存候、ケ樣の儀皆金銀を重く覺へ候故と、武家の困窮との二ツにて御座候