Page:WatanabeOn-The Legs-Barajūji-1970.djvu/7

提供:Wikisource
このページは校正済みです

けれども男は決して踊らない。

勘定台の上の痩せた女の子の眼が何時迄も男の足に食い入った儘はなれない。

男はやがてそれに気が付く。

男はコップを痩せた女の子になげつけて

そして勘定台から引きずり落とす。

女の子は床の上にころび乍ら泣く。

女の子に、足が両方ともない!

女の子は男の足をさして叫ぶ。

その足を返しておくれ!

男の顔が蒼ざめる。

男はよろばい乍ら、顔を覆うてその場から逃れ出る……

自動電話。

男がけたたましく電話をかける。

総理大臣ヤアファル!

総理大臣室にあって総理大臣が受話機をとる。

男は叫ぶ。

王子の古い足は何処にあるのだ?!

大臣答える。

国立博物館にございます

男は自動電話室を飛び出す……

国立博物館へ、男の乗った自動車が真一文字にはしる。

博物館のうす暗い石造の室。

室の中央に大きなガラスの箱が置いてある。

二人の番兵が銃剣を持って厳しく両側に立っている。

男が飛び込んで来て、そのガラスの箱を覗き込む。


死んでいる足!


ガラス箱の中には、アルコール漬になって二本の大根のように膨らんだ白い足。

王子グリ・ウリ殿下のお足――と書いた貼り紙。

男は、いきなりガラスを打ち破ってその足を盗もうとする。

そこで二人の番兵は両方から銃剣で男を突き刺してしまった。