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危い女の子の足が兵士の行進のように勇ましく踏む………


街へ


街。道ばたに群がる群衆。みんな手に手に旗を打ち振っている。

男が群衆の一人に訊ねる。

王子さまの御足がお癒りになったのです

やがて王子の行列が差しかかる。

太鼓をたたく者。横笛を吹く者。ラツパを鳴らす者。

美々しい軍服の兵士達。


そして王子――


美少年の王子。

だが王子の足ははだしだ。それはまことにけだものの足のように逞しくて、しかも大きな鉄の玉が一つずつ結びつけてある。

その鉄の玉を四人の侍従が力を合せて担いでゆく。

群衆は王子を見て旗を振り乍ら万歳々々と叫び立てる。

男はおどろいて

それから腹を抱えて笑いころげる。……

贅沢なる料理店。

紳士たち。淑女たち。

クヮドリールを踊る踊子たち。


哀れな女の子


勘定台の上で、愁しい顔をした痩せた女の子がその踊を見ている。

男が這入って来る。

あまり卑しい身形みなりなので、踊子も給仕も尻目にかけて行き過ぎる。

男はそこでさっきの紙幣をバラ撒く。

忽ち踊子たちは男の体にむれたかり、給仕たちは床を這い廻る。

他のお客たちは皆啞然とする。

勘定台の上の痩せた女の子が男を見る。

小いママさな女靴をはいた男の細い足。

勘定台の上の痩せた女の子の眼が輝く。

男は酔っぱらった。

踊子たちは男に踊ることをすすめる。