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に於て斯様の記載は裁判官に予断を生ぜしむる虞ある事項にあたると言わざるを得ない。此の起訴の瑕疵を無視して審理及裁判を進行したるは刑事訴訟法第二百五十六条第六項、同第三百三十八条「四」、憲法第三十一条、同第三十七条の違反あるものである。
第二点、原審判決には反て重大なる事実誤認ありと思料す。
本件〔甲〕殺害は昭和二十四年八月六日で国立弘前大学の新設日尚浅き頃とて地方人の風評百出之等先入観を植付けられた捜査機関亦幼稚一件記録を通じて左記を見る。㈠ 本件証第三号領置され弘前警察署より医士引田一雄に鑑定を許され同氏は罪証を発見せずして昭和二十四年八月二十四日返還した。㈡ 同年九月一日直ちに国家地方警察本部科学捜査研究所法医課へ送附され同所は同月十二日鑑定終了尚所要の結果を見ずして返送した。㈢ 尓後理由なく従らに三十五日を空過して同年十月十七、十八の両日に渉り三木敏行、同松木明に記第三号の血痕鑑定を託した。㈣ 斯くして㈡の場合可検物は前記法医課に依て(鑑定書の如く)「褐色汚斑」として受取られたものが前項の場合三木、松木両氏共「赤褐色」として受取られた。 ㈤ 第一審証人〔乙2〕供述「畳一畳には非常に血がついて居りましたがそれは血の海と云つた具合でした」 ㈥ 原審証人〔丙〕供述「問 被害者の血液型の検査に使用した血液は何処から取つたか 答 畳に浸み込んでいたのを使用しました」総て血の色は時の経過と共に変じ赤より褐に変るは一定不動の原則で断じて褐より赤褐に逆行することなし。法医学の教うる所に依れば今の世凝血の溶解、流動、迸出、辷出、飛着等人工のまゝである。
第三点 原審は自判(事実)㈠認定につき鑑定人丸井清泰作成の鑑定書を証拠として挙示したるも同審には(書中被疑者とあるは被告人を指す)、「被疑者は現在妄覚、妄想、等を経験保持している形跡なく過去に於てもこれらを経験し保持した形跡がない」「聯想考慮の進行に異常なく考慮の内容は低能状態、癡呆がないと云う意味に於て貧弱ではなく又妄想妄覚がないと云う意味に於て考慮の内容に誤謬がない」「被疑者は強迫観念、強迫感情、即ち恐怖症、強迫行為を持つて居ない」「被疑者の一般感情、高等感情には少なくとも著しい鈍摩や欠陥は認められない」「被疑者は本件犯行当時に於ても正常健康な