Page:Third criminal judgement of Hirosaki incident.pdf/7

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ものと考えられるのである。然るに弘前警察署員某が右の鑑定嘱託を撤回することもなく引田氏鑑定の中途において右のシヤツその他を持帰つたというのであるから、この場合の弘前警察署員の態度は不公明極まるものといわれても弁解の余地なかるべく、引田氏は不尠侮辱をすら感じたというのである。而かも引田氏に次いでシヤツの鑑定嘱託を受けた専門家は弘前市の公安委員である松木明博士なのであるが、同氏は何故に「自分一人では鑑定ができない」といい市の鑑識係〔丙〕氏に共同鑑定を求めたかを疑うものである。同氏はシヤツ以外の物件についての血痕鑑定は単独に之を済ましているのである。
以上の如き不公明なる態度は被告人に対し血痕附着状況を示し弁解をとつておくことによつて一掃されたことを思うにつけても、本件シヤツに関する証拠調は、血痕の附着状況殊に血痕の色調を被告人に示すことにより完全に施行されたといい得べく、血痕をクリ抜いた後のシヤツを示しただけでは完全な証拠調ということができないと信ずる次第である。
果して然らば証第三写海軍開襟シヤツの存在をとつて有罪の証拠に供したる原判決は憲法の精神に反し証拠能力を有しない証拠を採つて有罪の認定をなしたる違法があるというべきである。
第三点 以上の論点にして仮に理由なしとせば弁護人は更に、原判決には判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がありこれを破棄しなければ著しく正義に反するものありと信ずるので御職権の発動を促すものである。即ち
一、原判決は第一審判決破棄理由の説明(第二項)において「前記確率を全きものにし、推定を認定に高める諸案件が具わるのである」とし、第五項の説明において「原判決が犯罪の証明十分ならずとしたのは、恐らく