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他人の発見した自然法則と雖もその人の示教又は著書等によりこれを自己の知識とすることができる。鑑定人がいわゆる鑑定事項の調査をなすに際して特別な知識経験を必要とする場合その知識経験は必ずしも鑑定人その人が自らその直接経験により体得したもののみに限定すべきいわれはない。鑑定人は他人の著書等によるとその他如何なる方法によるを問わず、必要な知識を会得した上、これを利用して鑑定をなすに何等の妨げもない。されば所論の確率論が本来小松勇作教授の調査になるものであつたとしても、本件において古畑鑑定人はその確率論を理解承認し自己の知識としてこれを応用し、所論両個の人血痕が、その血液型の同一なることその附着した時期の時間的に間隔を認め得ないこと等に徴し、確率上同一人の血液であると考えても差支ない旨鑑定したものであること明白であるから、原判決が所論の鑑定を事実認定の資料に供したとてこれを目して違法ということはできない。されば論旨第一点の所論は単なる訴訟法違反の主張としても理由はないのである。また、原判決が論旨第二点所論の第一審押収にかかる海軍用開襟白シヤツ(証第三号)の存在を証拠として引用した趣旨は、必ずしも論旨にいうが如くその血痕の附着状況、殊に血痕の色調を証拠とした意味ではなく、論旨にいわゆる血痕をクリ抜いた後のシヤツそのものの存在を、原判決挙示の他の証拠殊に右の開襟白シヤツが被告人のもので被告人の着用していたものであることを自認している被告人の供述、その他被害者の母証人〔乙2〕の「本件犯行当時被告人は白い開襟シヤツらしいものを着て居た」旨の証言等と相侯つて本件殺人を認むべき情況証拠の一つとして引用したものであることは、原判文を通読すれば容易に了解し得るのである。そしてこの証第三号の白シヤツが前示の意味において情況証拠たり得るものであることは多言を要しないところであり、しかも第一審第一回公判において、適法に証拠調がなされていることが認められるのであるか