Page:Third criminal judgement of Hirosaki incident.pdf/10

提供:Wikisource
このページは校正済みです

る精神状態から著しくかけはなれた状態には居らなかつた」「被疑者には先天性精神薄弱、後天性癡呆は認め得ない」とあり、右は無欠なる常人の性行なり原審が斯る文書を前記(事実)㈠の如き認定の資料に供したるは正に証拠に拠らざるか又は理由に齟齬あるものである。
第四点 本件〔甲〕の場合真に不意の受傷であるならば世に呼ばれた際或は夫藤雄の名を呼ぶか或は母に縋るのが人情である。第一審〔乙2〕供述「唯一言死んで了うわと絶え絶えに伝つた丈でした」 此人情上あるべからざる言動は正に被害者が予期又は予感に出たのと信ぜらる。更に左記事実は之を裏付けるのである。
第一審証人〔乙2〕供述「其際何時も施錠されて居ります六日の晩丈けは差込錠を施して居なかつたと考えられます。〔甲〕の右側で左手で抱き起した様に記憶して居ります其の時の位置は犯人が居た個所と同じ所でした」同証人〔乙〕供述「夫人は床から外れ然も布団敷布や畳などが血だらけになつて居り同人の咽喉から血が出て居りましたそこへ〔乙2〕が来て可愛想だから床に寝させてやつてくれと云うので同人が頭部を私が両足を持ち畳から布団に寝させてやりました」。由之観此本件殺人は犯行の何人たるを問はず被害者の意に反したる傷害にあらず。
第五点 動機なくして行動ある可らず原審が動機不明のまゝ被告の本件犯行を認定したるは理由不備である。