の級の生徒は、学校中のお手本だと云つて、校長先生までが頻りに褒めておいでになる。だから皆さんもその積りで、一時の事でなく、此れがいつ迄も続くやうに、さうして折角の名誉を落さないやうにしなければいけません。先生をビツクリさせて置いて、三日坊主にならないやうに頼みますよ」
子供たちは、再び嬉しさのあまりどつと笑つた。しかし沼倉は貝島と眼を見合はせてニヤリとしたゞけであつた。
七人目の子を生んでから、急に体が弱くなつて時々枕に就いて居た貝島の妻が、いよ〳〵肺結核と云ふ診断を受けたのは、ちやうどその年の夏であつた。M市へ引き移つてから生活が楽になつたと思つたのは、最初の一二年の間で、末の赤児は始終
「さう云へば東京を出る時に、あなた方がMへお引越しになるのは方角が悪い。家の中に病人が絶えないやうな事になりますツて、占ひ者がさう云つたぢやないか。だから私が何処か外にしようツて云つたのに、お前が迷信だとか何とか笑ふもんだから、御覧な、きつとかう云ふ事になるんぢやないか」
貝島が溜息をついて途方に暮れて居る傍で、何かと云ふと母親はこんな工合に愚痴をこぼした。細君はいつも聞えない振りをして、黙つて眼に一杯涙をためて居た。
六月の末の或る日であつた。学校の方に職員会議があつて、日の暮れ方に家へ戻つて来た貝島は、二三日前から熱を起して伏せつて居る細君の枕もとで、しく〳〵としやくり上げる子供の声を聞いた。
「あ、また誰かゞ叱られて泣いて居るな」
貝島は閾を跨ぐと同時に、直ぐさう気が付いて神経を痛めた。近頃は家庭の空気が何となくソワソワと落ち着かないで、老母や妻は始終子供に叱言を云つて居る。子供の方でも日に一銭の小遣ひすら貰へないのが、癇癪の種になつて、明け暮れ親を困らせてばかり居る。
「これ、おばあさんがあゝ云つていらつしやるのに、なぜお前はお答へをしないのです。お前はまさか、いくらお母さんがお
かう云ひながら、ごほん、ごほんと力のない咳をして居る細君の声を聞くと、貝島は思はずぎよつとして急いで病室の襖を明けた。其処には総領の啓太郎が、祖母と母親とに左右から問ひ詰められて、固くなつて控へて居るのであつた。
「啓太郎、お前は何を叱られて居るのです。お母さんはあの通り加減が悪くつて寝て居るのに、余計な心配をさせるのではありませんて、此の間もお父様が云つて聞かせたぢやないか。お前は兄さんの癖にどうしてさう分らないのだらう」
父親にかう云はれても、啓太郎は相変らず黙つて