「私がこの國で生れたものでありますならば、お宮仕へも致しませうけれど、さうではございませんから、お連れになることはかなひますまい」
と姬は申し上げました。
「いや、そんなはずはない。どうあつても連れて行く」
かねて支度してあつたお輿に載せようとなさると、姬の形は影のように消えてしまひました。帝も驚かれて、
「それではもう連れては行くまい。せめて元の形になつて見せておくれ。それを見て歸ることにするから」
と、仰せられると、姬はやがて元の姿になりました。帝も致し方がございませんから、その日はお歸りになりましたが、それからといふもの、今まで、ずいぶん美しいと思つた人なども姬とは比べものにならないと思し召すようになりました。それで、時々お手紙やお歌をお送りになると、それにはいち〳〵お返事をさし上げますので、やう〳〵お心を慰