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霜の花

――精神病棟日誌


東條耿一


士官候補生


 精神病棟の裏は一面の竹林になっている。日暮にはこの竹林に何百羽という雀が群がり集うて、さながら一揆でも始めたような騒ぎ様を呈す。

 士官候補生殿はこの光景を眺めるのが何より好きであった。日暮れにはきまって松葉杖を突き、非常口の扉に凭れるようにして佇んでいられる。片足を痛めているので、その足は折畳式のように屈めて片方の大腿部に吸い付け、上半身を稍乗出すように、首をさしのべて佇っている姿は、まるで汀に佇む鶴のようである。しかし、それにしては何と顔色の悪い、尾羽打ち枯らした鶴であろう。頭には殆ど一本の毛髪も見られず、潰瘍しきった顔の皮膚はところどころ糸で結んだように引ッ攣れている。そのうえ恐しく白いのである。その白さも只の白さではなく、何となく不気味な、蒼白を超えた一種異様な白さなのである。その白色の中に、陥落した鼻孔と、たるんだ唇、大きなどんよりとした二つの眼がそれぞれの位置を占めている。手足が不自由なので動作もひどく鈍い。たいてい特別室に閉じ籠ったきりで明り窓から凝っと空を見ている。明り窓か