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Page:Shisekisyūran17.pdf/802

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り御規定の所嚴しく仰わたされ斷然として御制禁の旨仰つけられ候はゝ我に於て仁義の名を失せす彼に於ても亦いかにとも可致やうこれなく恨も憤りもつかまつるましく萬事穩に相濟申へくと奉存候文化年中魯西亞使節レサノツト日本へまかり越て交易願かなはす本國へまかり歸り候て申わけこれなきを歎き自殺仕候につき其下役人ホーシトウこれを憾み惟一艘の船にて蝦夷の騷動を生し國家幾多の御ものいりをかけ奉り候此度のモリソンハ近く廣東にまかり越え其うへ軍艦を數多支配仕り殊に日本近海に屬島多く魯西亞レサノツトの類にハこれなく非法の御とり扱これあり候てハ將來いかなる患害出來候哉實に可怖と存し奉り候なをまた此たひ漂流人とゝなへ候もの船方蠢愚のものに候や但しまた佳成に文才あるものにも候や審ならす何さま此たひモリソンのまかり越候ことハ尋常のことゝハ存しられす但し右申あけ候儀も方今文明の御代明君賢相上にまし御良策被爲在候へハ申あけ候まてもこれなく候所至愚の我傍はゝからす其職に非らすして國家の御政事を論する樣相聞其罪かろからすことに候强て仰を蒙り候ゆゑ申あけ候ことに御座候尤これハ國を思ふの忠膽に出候儀ゆゑふかく御咎めくたされましくなとゝはなしけるを聞ぬるうち木柝の聲におとろき夢さめて見れハ今まて集會の席とおもひしハ我寢室にて我に對する人もなくともし火のかけいとくらく鷄の聲はるかに聞え夜もあけなんとするありさまなり左思右想するにこれハ醒るに似てまた覺たるにあらす夢に似て眞の夢にもあらす奇怪不思議のことにあれハ筆をとりておほえしことゝもを記しをきぬ  戊戌冬十月夷日の明日  十一月再校了