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も出てざりしがやがて老侯は可哀想にと感慨深き一語を殘して靜に此場を立ち去られしかば余等も亦續いて之に隨ひぬ、去るに臨むで三浦博士は御職掌柄早速半巾を取り出して頭蓋骨の一部を土產に包まれたりき。

 アレー、ノアールの附近に全山一木一草をも留めざる赤裸々の一丘あり、之をポムペイ堡壘の址となす、此堡壘は以前蓊欝たる森林に包まれてありしが千九百十四年八月獨軍第一次の攻擊に際し三萬發の砲彈を受け僅一夜にして現在の如き禿山に化したるなりとは當時此地にありて親しく其急激なる變化を眼のあたりにせし小林少佐の談なり以て近世砲彈の威力のいかに怖るべきものあるかを窺ひ知るべし、余等は老侯と八郞氏