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見る、疲勞困憊の狀歷然として色に形はれいかにも憫然なりき。

 市街の中央に蜂の巢をつゝきたるが如き無數の彈痕を殘して其形骸のみを留めつゝある一大建築あり、これをランスの大寺院とす、此寺院は佛國歷代の諸王が洗禮を受けし所にして佛人に取りては恰も我伊勢大廟にも比すべき神聖なる靈場なる由、されば獨軍が此地を攻擊するに當り此寺院の高き塔を好箇の目標として砲火を浴びせかけし事は佛軍の敵愾心を甚しく振起せしめたりと云ふ、かくて佛軍は死すとも退かざるの覺悟をなし獨軍も亦意地になりて飽く迄之を陷れむとしたる結果ランス附近の戰鬪は猛烈を極むるに至りたる也、然して此寺院は其建築精巧なるより美術史上の一典型なりし由なるが今や