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の身邊に集中せり、男は英語にて認めたる草稿を手にして起ち上り議長の方に向ひて之を朗讀し始めたり。男は先づ國際聯盟規約中に人種の相異に本く差別的待遇を撤廢すべしとの條項を包含せしめんとする日本の修正案が前後三回委員會に提出せられて遂に其承認を得る事能はざりし顚末に付縷述せり、男の聲は稍低き憾ありしも問題が問題なりし上に最近伊太利委員の歸國に次ぎて日本委員も亦最後の決心の臍を堅めたり等云ふ浮說の行はれし際なりしかば、滿場は片唾を呑んで男の一言一句も聞き洩らさじと許りに傾聽せしが終に男の口より『吾人は此提案が今日此處にて直に採用せらるべき事を强ひて求めざるべし』の語を聞くに及び始めて安堵の胸をさすりし如か