Page:Sengo ōbei kenbunroku.pdf/198

提供:Wikisource
このページは検証済みです

る其間には目も覺めむ許りなる芳草の萠え出でゝ濃翠淡綠あらゆる色彩配合の妙趣を表はし盡せり。詩人の所謂『綠蔭幽草勝花時』の句は、實に此地に於て始めて是を見るを得べき也。

 英國の田園は眞に世界の樂園と稱して妨なけれども、倫敦の市街は巴里に比して著しく不愉快の感を催さしむる事を吿白せざるを得ず。巴里の天は淸く高く澄みて白雲蒼穹に搖曳す。倫敦の空は朦朧として晝も尙室內に燈火を要する事屢なり。巴里の街道は兩側に並樹を植ゑ區劃整然として頗美觀を呈するも、倫敦には並樹なく且道路狹くして迂餘曲折せり。若し倫敦よりハイドパークを始め二三の公園を除き去らば其殺