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十、倫敦雜記

 一衣の帶水を渡りて足一度英國の土を踏めば山川風物凡て大陸とは著しき相異をなせるを認め得べし。倫敦の郊外一步を出でむか、彼處に丘あり此處に谷ありてかの浩茫たる大陸の平原を見馴れたる眼には何となくせゝこましき箱庭に入りたる如き心地せらる。然れども斯の如き海上の一小島國の中に大陸的景趣を求めむとするは無理なる註文也。英國の自然は人をして親しましむべく馴れしむべく造られたり。仰ぐべく畏るべき雄大嚴肅の趣を缺けるも、慈母の懷に抱かれたる如き温さを感ぜしむる點に於て世界何れの處にかゝる好風景を見