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て居たりしかば當地に來るや早速大學に行きて其健否所在を尋ねしに是亦昨年一月病歿せりと云ふ、予は之を聞きて心の痛みを覺ゆる事更に切なり、せめてはライン氏の未亡人になと會ひて其侘しき寡居を慰めんと思ひ立ち二十五日朝花を携へて其家を問へばようこそ尋ね吳れたりとて予を抱かん許りにして客間に導き入れ淚ながらに色々と昔の思出を語られ父君の居給ひし頃の家は此家にあらで某々街に在りなど懇に敎へられたり、予は居る事約半時間の後、衷心より未亡人が老後の安泰を祈りて其家を辭しぬ。

 かくて予は二十五日午後此悲しく懷かしき追憶の地ボンを去りてケルンに赴き一泊の上、姉崎氏の一行と別れ白耳義を經