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獨逸をして其物質的迷夢より醒めしむる動機たるべしと說けり、然れども思ふに奈翁戰爭時代に於ける獨逸國民の生活は今日と比較すべからざる程簡單素朴のものなりしなり、從つて國を擧げて奈翁が鐵蹄の蹂躪に委したりとするも其受けし物質上の苦痛は近世人の感ずる如く甚だしきものにあらざりしなるべく却て其爲に自由に對する熱烈なる一種の宗敎的憧憬を生じかくてシルレル、フヰヒテの理想主義が十九世紀の獨逸を風靡するに至れるなり、然れども今日は當時と事情大に異れり、戰爭開始以前外に對しては巧妙なる經濟的膨脹により內にありては優良なる幾多の社會政策的施設により近世的にして濃厚なる物質生活の甘露を吸ひ始めたる獨逸國民が今此大打擊