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 旅館料理店に於ける客の大多數は佛國將校にして給仕人は大方戰地より歸り來りしと覺しき獨逸の靑年なり、昨日迄は鎬を削りて戰ひ合へる敵同士今かゝる場所に相會して双方如何なる感かあらむ、マインツにて予等を案內し吳れし佛國士官は西部戰線の各方面にて戰鬪に參加したる人なりしが其人の話に先日或芝居小屋にて隣席に除隊されし獨逸靑年ありしかば段々戰爭の話をする內、某月某日某所に於ける戰鬪に從へりと云ふに能く考へて見れば自分も亦丁度其戰鬪に參加し居たりし事を思ひ出し覺えず手を取り合ひて互の身の無事と奇遇とを喜びたりきと云ふ。

 マインツの市街を一巡して後我々は汽車に投じてライン河