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が獅子吼を以て有名なるウオルムスを過ぐ、此日も亦雨なり、驛路蕭條として烟霧に鎖さる、敗退の獨逸と思へば草も木も生氣を失へる感あり。

 マインツに來れば最早純然たる獨逸市なれども占領地なれば佛國兵意氣揚々として大道を濶步しつゝあり之に對し一般市民は何となく威壓を感じ居るものと見え氣勢更に揚らず、軍服を纒へる同行のブロツシユ少尉と電車に乘れば乘客は皆何か恐ろしき者でも入り來りし如き面持して尻込をなす、談話も佛人の前にては小聲になし、どことなく遠慮の風あり、偶我々が獨逸語にて話しかける時は非常に意外の感をなしいかにも嬉し相に何やかやと戰爭中の事等物語る樣痛はしかりき、彼等の