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臺のみ殘れり、予等の公園を漫步するや一老翁に會す、此翁は千八百七十年ア、ロ二州の獨領と變ぜし際此地を去り今又佛領となるに及び(五十年振にて)此地に歸り來れりと云ひ喜色を滿面に漂はせり、一般にローレン州は其人民の殆ど全部佛人なればアルサス州とは異り擧つて此度の佛領復歸を喜べるものゝ如し。

 メツツ市街は狹くして家並も小さし、唯其間に嶄然として頭角を抽んずるものはカトリツク寺院なり、此寺院は有名なるストラスブルグ大寺院に比すれば規模小なれど內部外觀共に甚だ壯麗なり、此寺院にて驚きし事は周圍に多く聖者の像を安置せる其中に聖母の像と相並びて獨帝の像を据えたる事なり、いかに獨帝なりとてまさかかゝる事を强要したるにも非ざるべ