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て歐洲併合の約定をなさん下心なりしと云ふ。

 翌十九日朝予等一行四人自働車を驅りてヴエルダンよりメツツに向ふ、市街を出づれば浩々たる平野限りなく展開し來る、處々に森や林はあれど枝も葉も皆砲彈に振ひ落されて殘れるは唯半燒となれる幹のみなり、幾千幾萬とも數知れぬ丈夫の草むす屍朽ち果てたる野原には一面に色濃き罌粟の花の咲き亂れて紅の血汐に染めなせしかと疑はる、我々は此間を疾驅する事十數哩、沿道無數の鐵條網と塹濠とに當年龍攘虎搏の面影を偲びつゝヒンデンブルグ線を越えてエタンの村に來る、全村崩壞して寒草茫々唯一片の斷礎を有するに過ぎず、夫より進みて鐵の產地ブリエーを過ぐれば獨佛舊國境に達す、國境と雖も街