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令官某大佐を中に圍みて戰爭談に花を咲かせ居たるが佛語なれば予には少しも解らず、大急ぎにて空腹を充たし後己れの室に歸り其夜は薄暗き電燈の下に橫たはりながら壯烈を極めしヴエルダン籠城の當時を想ひ浮べつゝ寢に就けり。

 ヴエルダンの戰は今次戰爭に於ける二百三高地なり、市街を瞥見するに甞てランスに於て見たるが如き甚だしき荒廢の狀を呈し居らずと雖も市街を中心として東西約四十キロ南北約二十キロの廣汎なる範圍に亘り彈丸雨の如く注ぎて山川草木悉く舊態を一變したりと云ふに至つては只々驚くの外なくペタン將軍の率ゆる佛軍が四十萬の兵を以て百萬の獨軍を支へ四年の久しき間能く堅忍自ら持して遂に此地を敵手に委せざ