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の持主は何れも千萬長者なるが其多くは佛人に非ざるなり、余は此地到着以來ホテル住居をなし居る爲親しく佛人の家庭生活に立ち入りて觀察する機會無きも或中流の家に下宿せる人の話によれば彼等の質素なるは寧ろ吝嗇に近き程度にして食物の如き頗る粗末なるのみならず其家の娘は帽子等も决して他にて求めず只材料丈買ひ來りて自ら製作するなりと云ふ、余は佛國の眼に見えざる一種の强味と底力とがかゝる些末の一家事の中にも看取せらるゝを思ふ、かの爛熟の國なり頽敗の國なりと言はれし佛蘭西がカイゼルの一擊に脆くも潰えむと思ひの外次第に大勢を挽回して遂に最後の勝利を得るに至りし力の源泉を尋ぬれば實にかゝる節儉質素の風と國民的傅來の