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了性寺晚鐘了性寺、後に見𛀁たり、
此てらの峯ふくかぜもしづかにて
さだかにひゞく入相の鐘
野元秋月野元の原野をいふ、後に見𛀁たり
雲きりもはらひ盡してたぐひなき
野元のあきの月の光は
尾畔落雁、尾畔は、已に前に見ゆ、
幾行かかずさだめなく聲たてゝ
尾畔に落るあきの雁がね
櫻島暮雪櫻島は、後巻に見ゆ
櫻じまひがたをかけて降雪は
ちりかふ花のかはるの面影

松見崎十二景府城の東南 荒田村にあり、此地滄海の汪洋渺漫に臨み、高山の烟霞杳靄を仰ぎ、其景其狀、四望山水の秀を掬し、漏すことなし、小松清香、嘗て眺望十二の品題を撰ひ、和歌を詠ず、其友二階堂澄行、これを京師に携へ、日野中納言資枝に示せり、資枝これが和歌を詠じ、自ら書して澄行に與へらる、 小松氏に笥藏す、資枝の歌左に開列す、

高隈朝霞

立まよふくもよりうへにたかくまの

峯ほのとかすむ朝戸出

櫻島春月

浪かすむ月のみはるのさくらしま

夜をへて花に影もめてまし

荒田蛙聲荒田は、一村落の名

すきかへすのちもきかまし水草生る