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來霜露、深く青葉を染め、山は錦袍を被、樹は繍帽を冠するに似たり、冬は寒鳥氷田に群かりて、鳴聲殘夢を驚し、雪朝遊觀すれば、銀界に入て瓊樓に登り、滿目玲瓏の眺を極むといふべし、夫れ大磯は其所に云へるが加く、一大仙洞にして實に蓬莱の思ひあり、此尾畔の地は、岡巒廻合、獨り其東の一面を缺き、阡陌縱横に相列り、四望清爽、又比すべきものなく、共に無量の勝を蓄へて、優劣いづれともいひがたし、かくて府内の櫻、大磯と尾畔とを一雙とし、或は磯邊に瓊筵を設け、或は尾畔に雅友を倡ふ、人々志さしの所向に隨て、遊興を催さざるはなし、畢竟昇平の澤に浴すといふべし、

近衛櫻府城の西 原良村の内、島津久誠別墅にあり、近衛殿下庭栽の花と同種の垂絲櫻なり、嚮には大樹ありて、數丈天を覆ひ、滿園繁茂、萬縷地に垂れ、毎春風雅の盤旋するなりしが、惜哉