Page:RanIkujirō-NegotoRecord-BungakuShobō-1942.djvu/16

提供:Wikisource
このページは校正済みです

――私用は御遠󠄁慮下さい。

 と書きなぐつてから、一寸考へてそれを丹󠄁念に消󠄁し、

 ――差支󠄂へなかつたら退󠄁後ゆつくりと伺ひたいと思ひますが――

 一瞥した美知子は、すぐ何かそれに書き添へ、美しい手をさし伸べて、かへして寄來した。

 ――差支󠄂へなど、ずーつとありません。

 恥かしさうに横を向いた美知子の、すつきりと伸べられ、刈上げられた襟足は、靑々として幼ない皮膚のやうに透󠄁きとほつて見えた。

 河上は、木村へ早く電話しなければ、とそれだけが、今氣がかりであつた。